坂上 泉『渚の螢火』

1972年、本土復帰を間近に控えた沖縄で、100万ドルの強奪事件が発生する。明るみに出れば日本と米国の国家間問題に発展する重大事案を秘密裡に解決すべく捜査にあたるのは琉球警察に所属するわずか5人の捜査員。タイムリミットである5月15日の沖縄本土復帰日までに100万ドルを取り戻し、強奪犯を捕えることができるのか。

という物語ですが、タイムリミットが迫るハラハラ感よりも(それもあるけど)沖縄という特殊な土地に生まれ育ち、沖縄ではまだめずらしい本土の大学卒であり警視庁で研修を受けた主人公が無意識のそれも含める差別や偏見を浴びながら「自分はいったい何人なのか」を考え続ける時間のほうが長く、また事件も米国・米軍の支配下にあるという特殊事情、辛い歴史が色濃く反映されている内容なので、読む前に予想していたものとはずいぶん違ったなという印象です。以前読んだ「インビジブル」も同じような時代設定(戦後)だからこその面白さがあったように記憶しているので、この作品も同様にエンタメ性の高い物語のつもりでいたので。
とはいえ思ってたのと違ったというだけで、「沖縄の歴史」を読むという意味では面白く読めました。

というか、もう視聴はやめてしまったけど現在放送中の朝ドラの「沖縄」とはまったく違う世界がここにあって、同じ時代の沖縄を描いているはずなのにアレは一体なんなんだ・・・?などと思いながらの読書であったことを書き残しておきます。