奥田 英朗『オリンピックの身代金』

オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

上下2段組というボリュームだから当然と言えば当然なのかもしれませんが、文字数に関わらずずっしりと読み応えがありました。真面目で物静かで優しいイケメン(こことても重要!!)がオリンピックを人質に国に喧嘩を売ろうと思うその過程に無理がなく、たった一人で挑むのではなく相棒に選んだ人物の設定も憎らしいほど上手いなぁと。事件を起こす側(犯人)とそれを追う・防ぐ側(警察)の視点に加えて全く関係ないわけではないものの、第三者というか事件の端っこにいる一般人の視点も加わってるところも上手いと思った。視点以外の人物の造詣もしっかりしていて、特にクセのある捜査一課の刑事たちはこの人たちの別物語を読みたいと思うほど魅力的だし、イケメン犯人が知り合う人々(労働者仲間や学生運動に参加してる女子)もさほど掘り下げてるわけでもないのにちゃんと骨格があって血が通ってるように思えました。このボリュームなのに一時も読んでいて飽きなかったのは人物造詣の上手さによるところが大きかったです。
昭和史の1ページとして読んでもとても興味深いし、今叫ばれている「格差社会」という視点で読んでもいろいろと考えさせられます。国立競技場や日本武道館を“作った”人々の多くはオリンピック競技を見ることなんて出来なかったんだろうなぁとかね、某ドラマの主人公の言葉じゃないけど、「日本は昔から格差社会」なんだよな。