浅倉 秋成『俺ではない炎上』

ハウスメーカーで営業部長として働く男が見に覚えのないSNSの投稿によって殺人犯と特定される物語です。

SNS」が鍵となること、事件に巻き込まれたことで自分と向き合う羽目になること(自分の認識と他者の自分に対する認識のズレに直面する)、事件の発端に〇〇の感情があること、などから先日放送が終了した誘拐ドラマとの類似性を感じるわけですが、並べたこの三項目全てにおいてドラマよりもこの作品のほうがはるかにクオリティが高い(映像と小説という媒体の違いはあるし、〇〇の描写に仕掛けがあるので映像にしたら一発で解ってしまいそうではありますが)(いや小説でも主人公の年齢を考えればそこに仕掛けがあることは明白なんだけど)。

特にSNSの使い方。Twitterの投稿が挿入されるのは小説においてももはや定番の演出だけど、登場人物のひとりが同行する人物について「疑い」を持つキッカケとしてのTwitterの使い方は上手いし、主人公がこれまでの自分の言動が他人にとってどう受け止められていたのかを知り、追い詰められたところで救いの手を伸ばしてくれる人物(が誰であるか)が現れるタイミング、その人物が主人公を信じてくれる「理由」がこれまた上手い。(SNSという)デジタルに対するアナログじゃないけど、その対比という意味でも。

「俺ではない」というタイトルも、主人公だけでなく他の視点人物にも掛かってて、浅倉さんの前作(六人の嘘つきな大学生)を読んだ印象としてはむしろこの「他の視点人物」のほうがこの作品のテーマを背負う存在だと思えるのですが、この人物にこういう役割を担わせるところ、これが浅倉さんの作風なのかなと思うと共に、これぐらいの物語を描ける人がテレビドラマ界にも現れてくれないかと切に思う。