『モーツァルト!』@帝国劇場

古川雄大くんがヴォルフガング・モーツァルトとして帝国劇場で主役を務める。その第一報を聞いたときはただただ驚きと、そして結構な恐怖がありました。着々と帝劇作品に出演し経験を積んでいる古川くんなのでいつかは主役をやることがあるかもしれないとは思えど、モーツァルト!のヴォルフガングという大役だなんてあらゆる意味で大丈夫なのかと、今の古川くんにヴォルフガングを演じるだけの能力が果たしてあるのだろうかと、デビューからファンとして古川くんを見てきたからこそ、わたしはそう思わずにはいられませんでした。

なので初日を迎え、ヴォルフガングとして帝国劇場ゼロ番に立った古川くんは「(思ってたよりもずっと)良かった」という評判がその気はなくとも(自ら確認しなくとも)目につき、嬉しさと安堵を噛みしめながら古川くんはきっととてつもなく努力したのだろうと、古川くんは綺麗なだけの男じゃないのよ!と謎のエッヘン感を抱きながら座席についたわけですが、え・・・・・・・・・ボロボロやん・・・・・・・・・。

実際にわたしが自分の目と耳で確かめた古川くんのヴォルフガングは、悲壮感・・・という表現でいいのかなぁ・・・みるからに壊れそうで、身体の半分以上を闇(最初病みって変換されたけどあながち間違ってないような・・・)に持ってかれてる感じで、観ているのが辛くなってしまうほどでした。

開幕してまだ1週間、公演数としてはわたしが観た回で5回目とかそれぐらいなのにもう喉がいっぱいいっぱいで、なんども裏返ったりしてて、歌唱時の表情にもそれが出てしまってて、それでもそこにそれを補うだけの熱量があれば裏返りもまた魅力になるけど(ヴォルフガングはそういう役だと思うので)総じて生命力が感じられないヴォルフでですね、展開とあいまって最後のほうはとにかく観ているのが苦しかった。

でも悪くはない。ファンの贔屓目と思ってもらって構いませんが、特に2幕に入ってからの孤独感、二つの自我に追い立てられるようにして破滅であり破壊に向かっていく様は鬼気迫る感じでむしろ良かったとわたしは思う。まぁ観ながら「頑張れ、頑張れ」と祈りながら観るしかなかったんでその感情が影響していたであろうことは否定しませんが、それだけに1幕のヴォルフガングがもっと光を放っていたらと思うんだよね。そしたら光と闇の落差はよりすごくなったと思うの。

陽と陰で言えば古川くん自身は明らかに陰で(わたしはそこに魅力を感じているのだけど)、だから古川くんがヴォルフガングとして光を放つには「演技力」が必要ということになる。舞台に立っているだけで誰よりも目を惹く容姿ではあるものの、才気溢れ天真爛漫で生気に満ち満ちている天才オーラは残念ながら全く見えない。可愛い・・・可愛い・・・可愛い・・・!と心の中で念仏のように唱えさせられはするけどヴォルフガングにそこまでの可愛さは必要ない。可愛いだけのヴォルフガングに価値はない。容姿でカバーできないのがモーツァルト!のヴォルフガングという役なのだろう。だからこそそこを古川くんがどう演じるか、特に1幕をどう演じることができるのか、『僕こそ音楽』の歌い上げを筆頭に1幕と2幕の演じ分けができるようになれば「古川雄大のヴォルフガング」になる可能性はあると、期待を込めてそう思う。

まだ古川くんのモーツァルト!は始まったばかり。その道のりは思ったよりも険しいものになりそうだけど、一歩一歩踏みしめながら進んでもらいたい。あと肉つけて。つけろ。ガリガリの胸板すぎてラストシーンが別の意味で目を覆いたくなっちゃうから。



古川くんが歌う僕こそ音楽を、残酷な人生を聞いた瞬間はさすがに感極まりました。こればっかりは歌唱力とかそういう次元の話じゃないの。こういう瞬間があるからオタクをやめられない。