月村 了衛『脱北航路』

実際にあった事件、出来事、歴史を下敷きとする月村さんの作品群に連なる作品になりますが、今作は「北朝鮮による日本人拉致問題」。
北朝鮮で開かれる大規模な軍事演習のタイミングで一隻の潜水艦が拉致問題の顔である日本人女性を乗せて日本への亡命を図る、という物語です。

現在進行形の問題だけに、不謹慎ととらえる人もいるだろうとは思いますが(そしてそういう考えを否定はしません)、この題材をここまでベタな海洋アクション小説、軍艦バトルとしてエンターテイメント性の高い「小説」にする技術はいつもながらすごいですわ。

視点としては潜水艦内の北朝鮮軍人間のやりとり、拉致被害者女性を交えての人間模様と、40年前に中学生の少女が北朝鮮によって拉致されるその端切れを掴みながらも手放してしまった警察官と漁師(いまは共に老人)の後悔になりますが、どちらも熱い!。
前者は所謂「憎まれ役」がいるんですが、コイツが最後にカッコいいとこ見せちゃうし、後者の老人二人に至っては今すぐハリウッドで実写化されてもおかしくないレベルの活躍をキメますからね。
どちらの国のトップ(上層部)もクソだとしっかり描きつつ、そこに小説としてなにがしかのオチをつけることはせずに最後は「人」が「人」を救う物語として綺麗にまとめるところに月村さんらしさを感じます。