月村 了衛『ビタートラップ』

帯に「わたしは、中国のハニートラップなんです」と大きく書かれているので、農水省の係長補佐(ノンキャリ)である主人公がハニトラに絡めとられる様を描くのではなくハニトラに引っかかったところから物語が始まるのだろうと、ハニートラップ要員である女に振り回されながら中国と日本の諜報戦に巻き込まれてしまった下っ端役人がどう立ち回るのかを描く小説なんだろうなとは予想しながら読み始めたわけなんですが、開始直後、具体的には3ページ目で「わたしは中国のハニートラップなんです」の台詞が飛び出たもんで「はやっ!!」と驚き、そしてその驚き(の瞬間)がピークでした。

上司から押し付けられた中国人が描いた「原稿」を手に入れることがハニトラの目的であることはハニトラ要員の女が早々に説明し、それが真実なのか嘘なのか、語られる全てのことに対して主人公は疑心暗鬼になるんだけど、そもそもその「原稿」はさしたる「機密」ではなく(そこから大きな陰謀やら計画やらが浮かび上がる的なこともなく)、帯にあるように「恋愛サスペンス」の趣が強いのでまあ私の好みではなかった、ということで。