五十嵐 貴久『サイレントクライシス』

以下内容に触れてます↓↓↓







コロナというパンデミックとその影響、某国の拉致問題、かつての侵略戦争以降今もつづく隣国との確執

それらを題材とする小説は数多ありますが、それ全部一緒にしてエンタメ小説にしちゃうのはさすが五十嵐さんだなー。

長い年月をかけ綿密に立てられた計画を実行するために過酷な訓練を重ね、上官の命に従い命を捨てる覚悟の軍人たち(モデルはもちろん北朝鮮)が日本中の原発を襲い放射能汚染を引き起こす(その混乱に乗じて本国が戦争を仕掛ける)のを主人公が阻止する、という物語において、肝となるのは一刑事である主人公がなぜその計画に気づくことができたのか、その理由なんだけど、「感染症が疑われる患者が発生したため患者の住居マンションを全戸消毒したら、マンションの一室で首吊り自殺したと思しき死体が発見された」というのがそもそもの発端なんですよね。
この自殺者が勤務する会社こそが日本に戦争を仕掛けようとしてる国の日本支部的なポジションで、計画に支障が出るってんで排除した(自殺に見せかけて殺した)死体は実行日まで見つからない予定だったのに、同じマンション内に感染者が出るという突発的な理由によって予定よりも早く発見されてしまったという、このコロナ(による騒動)を物語に織り込む「切り口」が秀逸。