五十嵐 貴久『天保十四年のキャリーオーバー』

天保十四年のキャリーオーバー

天保十四年のキャリーオーバー

綱紀粛正のためといい庶民の娯楽を禁じる水野忠邦の政策を推進し、南町奉行にまで成り上がった鳥居耀蔵。それにより舞台を追われ、鳥居に復讐を遂げようとした七代目・市川團十郎を止めたのは同じく鳥居への復讐を企てる矢部鶴松という青年であった。
という始まりで、鳥居という悪奉行に対する「仇討ち」を描く作品です。

仇討ちといっても命を取るのではなく、鳥居が奉行所内で行っている闇賭博で貯めこんだ大金を奪おうという計画で、鶴松を除き歌舞伎役者に落語家に作家という仇討ちを目論むメンツを思えばそれ自体はいい、というか、それで正解だと思うのですが、この時代の宝くじである「富くじ」の仕組みとそれを悪用した裏賭博の説明が多すぎ&硬すぎて、実際に鶴松がどんな計画を立てているのかが解る前に読み疲れしてしまった。敵を騙すにはまず味方から、な「仇討ち」自体は協力者たちの存在を含め痛快だったけど、全体を通して五十嵐さんにしては読みやすさという意味でのエンタメ度が低めだなという印象でした。