永瀬 隼介『属国の銃弾』

終戦直後と高度成長期の東京。二つの時間を行き来しながら戦争から戻った男たちによる「ある計画」を描く作品です。
「ある計画」を描く、とは書きましたが、実行も含め計画そのものが主題なのではなく、戦争という地獄で生き残った男たちが敗戦国としてアメリカの属国となった日本をどうするか、どうしたいのか、そのためにどう生きるのか、という物語で、東北の寒村出身で学もないが圧倒的財力とカリスマ性でもって日本のトップ=総理大臣に成りあがった男の秘書として生きる男の目線で戦後の日本史が描かれています。

マッカーサーを始め、実在の人名が多く登場するし、カリスマ総理となる男も実在の政治家を彷彿とさせるし、実際の歴史に沿った内容なのでそういう意味ではまさに「日本史」なのですが、その真ん中に『あったかもしれない●●計画』を置くことでエンタメ性がぐっと高くなってる。

そしてその計画に関わる男二人が熱い。
それぞれの「戦争経験」を含めこの二人の物語がすこぶるアツイんですが、出番としては実はそんなに多くないんですよね。

二つの時代を行き来すると書きましたが、行動成長期パートに二人が登場することはない。それがなにを意味するかは言われなくても解るんだけど、二人になにがあったのかはなかなか明かされない。過去と現在を繋ぐ二人の男と「ある計画」について、あの日なにがあったのかが判るのは最後の最後だし、それがその後の日本を自らの手で動かすために総理の座を目指す男とその秘書にとってどんな意味を持っていたのかについてははっきりとは描かれない。そこがいい。だって「ある計画」は結局二人のものだったんだから。

読んでいる間ずっとこの先にあるのが今のこの国の惨状なんだよなという思いがあったわけで、二人の存在によってほんの少しだけそれを忘れられる(二人の物語に集中できる)ことがありがたかった。