月村 了衛『対決』

現実の事件を下敷きにした作品群に連なる物語で、今作のモチーフは東京医大で長年女子受験者に対して一律減点が行われていた事件。
問題の学校で理事長を務める女性と、この非道な事実を世間に公表すべく取材する新聞記者の女性。それぞれ男社会で女性であるがゆえの屈辱に耐えながら生きてきた二人がW主人公となり、追及する側とされる側として「対決」するという趣向です。

一律減点問題は云わば“とっかかり”でして、テーマとしては「女性差別」「女性蔑視」。
そこで描かれるすべての差別や侮蔑については女性の誰もが一度は経験したことがあるもので、驚くことなど何一つないけど憤ることもまたないわけで、それはつまり諦めなんだよな。
私はまさにこの作品の舞台となる二つの男社会の隅の隅で社会人をやっているんで、よりダイレクトに作中のあれこれを想像できるどころか記憶として蘇らせることができるけど、それがなにがしかの原動力となることはない。ただ私の中にずっと有り続けるだけ。
そんな社会でなくなればいいとは思うけど、でも(対女性に限らず)差別がなくなることなどないとも思う。
作中のとある人物が言ってるように「折り合いをつける」のがせいぜいできることだよなと。