村田 沙耶香『殺人出産』

殺人出産

殺人出産

完全にタイトル買い。
“10人産めば1人殺してもいい”という制度の元、「産み人」となった殺人衝動を持つ姉と主人公であるその妹の物語で、“かつて殺人は悪とされた”ってな描写があるんで舞台的にはパラレルではなく近未来ということなのでしょうが、女性のみならず男性も人工子宮を埋め込めば出産可能=産み人となれると言う設定なんだけど、そんな技術(?)があるのに産むためには人間の身体が必要なのかと。人体必要なく子供を産める技術を開発したほうがいいんじゃないの?とか思ったり(そうすると子供を“産む”ではなく“造る”ということになってしまいそうだけど)。
それに、主人公の姉は殺人衝動の持ち主なので実際に人を殺すために産み人になった、つまり相手は誰でも構わないという特殊人物なんだけど、それ以外の産み人たちは(作中の概念・常識としては)殺したい人間がいるから産み人になるってな感じなんだよね。単純計算で10人産むためには10年の月日が掛かるわけで、殺すために出産するという発想でありシステム以前にそれだけの間ずっと殺意を抱き続ける人たちがそれなりにいる社会大丈夫かよ!?とか思ってしまってなんだかなーと。
単純に言ってしまえば『生:10』に対し『死:1』、10個もの命を産みだしたんだから1個ぐらい奪ってもいいだろうという話なわけで、それ自体は面白い(・・・というと人間性を疑われそうですが)と思う。でもその突飛な設定であり価値観を物語の中に落とし込めてないんだよね。せっかくそんなのはおかしいと、自分はちゃんとセックスして自然妊娠するんだという考え方をする人間を出しているのに、ただ“変わった人”であり“異物”としての役割しか与えられてない。読者の感覚としては当然この人側なわけじゃないですか。だからこの人の考えであり価値観をこの物語における“常識”でもってどうにかしてほしかったなと。