誉田 哲也『ドルチェ』

ドルチェ

ドルチェ

なぜ小説(やドラマ)に主役として登場する女刑事は皆美人なのだろうかといったことを確か以前誉田さん作品の感想内で書いたことがあると思うのですが、今作の女主人公刑事はアラフォーに近い所謂中年女でちょっとびっくり。その年代でも綺麗な女は綺麗なわけで、それどころか女として熟しきる時期と言えるわけで(人によっては、ね(笑))、ある意味最強な女刑事として描くことは容易だろうに、そこであえて「おばさん刑事」として描いたことに驚きました。また、女刑事モノと言えば男性同僚からのセクハラ紛いの嫉妬を受けたりと男社会で生きる大変さがこれ見よがしに描かれ、どんな内容であれ結局はその『女であるが故の特別扱い』そのものが主題となることが多いのですが、この女主人公がされる“特別扱い”とは、非番なのに性犯罪の被害者を始め女子供の相手(聴取)をさせるために呼び出されるといったもので、読みながら「ケッ」と思うことが一度もなかった。いい意味で普通の刑事モノとして読めました。
恐らくこれシリーズ化するつもりなのでしょう、少なくとも続編を書く余地はたっぷり残されているわけですが、ここで誉田さんの上手いところはそこまでは女オンナしてない主人公でありながら、一度だけ関係を持った警視庁捜査一課の同僚に主人公に憧れている部下とそれっぽい要素はちゃんと入ってるところ。決してモテモテなんかじゃないんだけど、そこまで“枯れてる”わけじゃない。私は基本恋愛ネタに興味はありませんが、それでもこの先物語を展開させていく中で主人公を刑事だけでなく一人の人間=オンナとして描くためには必要な要素で(それがなかったらそれこそ男が主人公の刑事モノとなんら変わりがなくなるもん)、その要素の入れ方としてはなかなかの好バランスだと思う。