奥田 英朗『純平、考え直せ』

純平、考え直せ

純平、考え直せ

刊行情報発表されたときも思ったけど、なかなか面白いタイトルだなと改めて。そして読んだらまさしく「純平、考え直せ!!!!!!!!」でした(笑)。
普通ではないけど珍しくもない境遇で育った一人の若者が、自分の居場所を自分の手で見つけているのにそうとは気づかずそれを手放そうとしている物語なのですが、コメディタッチで描かれているのでサクサク読めるけどでもなぜか重い。作中の人物が“若さや健康はそれを手にしている時はその有難味に気付けない、失って初めてそれがどれだけ素晴らしいことなのか分かる。そうと気付いてどれだけ渇望してもそれは二度と手に入れることはできない”というようなことを語るのですが、幸せもそうだよなぁと。
主人公の純平は今この瞬間間違いなく幸せなのだと思う。純平にしてみりゃ半人前扱いしかされず好きな女に見向きもされず、そんな自分のどこが幸せなんだと思ってるだろうけど、実際に人と出会い人と交流し喋って飲んで笑えるってことは、多分今の世の中ではかなり幸せなこと・・・なんだよな。偶然知り合ったバカ女が純平のしようとしてることをネットに書き込み、それにコメントがどんどんつけられていくという描写があるのですが、ネットで繋がってる少なからずの人間はつまりそういうことなのだろう。純平とは対極の存在。その中で純平を止めるために・・・と言いながらも実は自分のために外へ出た数人がいてそこで交流があったことがサラっと描かれているのですが、実はこれ結構重要なポイントなんじゃないかなと思った。
ラストシーンは幾通りもの読み方(想像)ができて、それによって物語の印象が一変してしまうといっていいぐらい読者任せです。どういうエンディングを想像したとしても、純平がその瞬間まで掴んでた“幸せ”はそのままの形で持ち続けることはできないだろう。それだけ幸せを掴むことは難しいのだと思う。でもまた新しい幸せを掴むことはできる・・・かもしれない。それは自分次第、ということかな。