誉田 哲也『幸せの条件』

幸せの条件

幸せの条件

何の目標ももたずなんとなく働きなんとなく生きてた20代女子がバイオエタノール用の米を作ってくれる農家と契約を結ぶまで帰ってくるなという社長の命でなぜか米作りをイチから学ぶことになり・・・という物語。
主人公の職場は技術力のある町工場なんだけど、そこで技術を学ぼうとする熱意なんぞ持たず言われるがままに事務を担当してるのね。事務だっていなけりゃ会社は回っていかないわけで必要な仕事なんだけど、そういう自覚を持つわけでもなくただ職場に行って仕事をするだけなのが当初の主人公なのです。そんな主人公が単身長野に行かされ農業を手伝う羽目になり、やがて“自分が必要とされる場所”ではなく“自分が必要とする場所”、自分がやりたいこと自分がやるべきことを見つける。こう書くとただの自分探し物語でしかないし実際その通りではあるんだけど、この作品が読み物として面白いのは誉田さんのストーリーテリングの上手さもさることながら、『3.11』を物語の中に落とし込む・・・ってのは表現が悪いな、取り込む?織り込む?・・・どう表現するのが相応しいのかちょっと分かりませんが、作中で主人公たちも3.11を体験し、その体験が主人公が自分の道を見つける引き金になってるのね。それがとても大きいと思った。
正直自分探し物語なんて読んでも見てもさして面白くはないわけですよ。だって読みながらそれにひきかえ自分は・・・って思っちゃうから。
(余談ですが、私ドラマとか映画は完全に異次元の物語として見るので自分に置き換えてどうこうってか、画面の中にはこんなにもリア充が溢れているというのにジャージでビール飲みながらそれを見てる私って一体・・・的なことは思ったりしないんだけど、小説は逆。脳内で想像しながら読むせいか過剰に感情移入しちゃってモロ自分に取り込んじゃうんですよね)
自分探し物語では必ず主人公の意識が変わるターニングポイントがあるわけですが、それが大抵納得いかないというか「ケッ」と思っちゃうものだったりするんでそこで気持ちが覚めちゃったりするんだけど、この作品は共感できるそれだった。むしろそこまでのあまり現実味のないふわふわしてた“お話”が、そこで一気にクッキリハッキリ締まった感じがした。
この作品の前に読んだ作品でもこの作品の後に読み始めた(今読んでる最中の)作品でも3.11が描かれてて、それはもうある意味当然というか、作家として避けて通れない道だったりするのでしょうが、物語の中でこういう位置づけとして描かれてるとなんかちょっとホッとします。
まぁやっぱりそれにひきかえ私は何やってんだろうなぁ・・・と落ち込みモードにはなったんだけどね(笑)。