誉田 哲也『妖の華』

妖の華 (文春文庫)

妖の華 (文春文庫)


第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞受賞作を文庫化するにあたり大幅に加筆、改稿した作品の復刊だそうですが、私はこの作品の存在をつい最近まで知らず、最近刊行されたこの作品の“前日譚”となる「妖の掟」を手に取ったことで知った次第です。

刊行順通りに妖の掟は寝かせてまずこちらから読むべき暫し迷ったのですが、続編とはいえ前日譚であることだし我慢もできなかったので(笑)、ちょっとした賭けのつもりで掟→華の順で読んだらこれ正解でした。時系列通りなのですんなり読めたし、華での登場人物たちの「想い」は掟での出来事があってのものなので、その理解度も恐らく刊行順で読むより深まったと思うので。

でも華が刊行されたのは2003年なんですよね。それから17年経っての掟であるわけで、さすがに文章の感じなんかは違和感があるのではないかと、あって当然というつもりで華を読み始めたんですが、まったくもって違和感なし。デビュー当時から誉田さんのいい意味での読みやすさは完成されていたんだなーと思うと同時に17年前の作品の「前日譚」を違和感皆無で書けちゃうことに驚愕せざるを得ませんでした。

というかそもそもね、美人でエロくて超絶強い日本版の女吸血鬼を主人公にするのはいいとして、「二百年共に生きたたった一人だけ仲間にした恋人であり家族のような存在だった男を亡くした3年後」から物語を始めるってところからどうかしてるでしょ。妖の掟を先に読んだことで、「圭一との出会い」から「暴力団組長3人連続殺人」を経て「圭一と欣治の死」、そして「闇神の村での皆殺し」が紅鈴にとってどれほどのことであったのかが明確に分かるけど、妖の華でのそれはそれこそ説明程度のことで、これだけしか読んでなかったら「介座の剣」のこととかいやそれ詳しく!とはなるわけですよ。でもちゃんと作中で描かれてはいるんですよね。それら全てが妖の掟で回収されてるの(遡る形にはなるけど)。
そして妖の掟を読んだからこそ紅鈴の「ヨシキ」を受け入れることの葛藤や、受け入れてからの喜びといった感情が理解できるんだけど、17年と言う歳月を思うと誉田さんのなかで紅鈴の物語がどの時点でどれだけあったのか、そこに驚き震えます。妖の華のこのラストが先にあっての前日譚って、どんなメンタルで描いたんだよ!?って。
さらに華と妖の2冊を読むとこれが「井岡」の物語であることも解るわけで、その井岡は誉田さんの代表作である姫川シリーズでは欠かせない存在となっているわけで、とにかくもう「誉田さんすげえな!」という頭の悪い感想しかでてこない。

なにやらこのあと紅花と欣治の出会いから血分けを描いた作品と、紅花と欣治の二百年を描いた作品と、妖の華の後日譚となる作品が予定されているそうで、楽しみすぎて禿げそうです。全部読むまで死ねない。