平野 啓一郎『かたちだけの愛』

かたちだけの愛

かたちだけの愛

美脚の女王と呼ばれ恋多き女として同性から妬まれる存在であった女優が事故で足を失い、女優を偶然助けた新進気鋭のコンテンポラリーデザイナーが病院を経営するパトロンの勧めで女優の義足のデザインをすることになる。すぐさま恋に落ちる二人。だが二人の間には女優の元恋人であるIT会社社長の黒い影が。
とまぁ誤解を恐れずに言ってしまえば昼ドラかよと思うような物語なのですが、そういう安っぽさは皆無。例えば「性愛」を描くとして、そのために使われている言葉は美しくも静謐で、下世話な感じは全くしないのです。でもとても官能的。いつものように芸術や食べ物に関する平野さんの趣味嗜好が随所で見られますが、主人公がデザイナーなせいかさほど鼻につくこともなく(笑)、昼ドラ話と合わさると程よい中和加減でエンターテイメント作品としてとてもいいバランスです。
「愛」というかたちのないものを「かたちにする」・・・というとちょっと違う気がしますが、男と女が自分たちなりの愛のかたちを見つけるための題材として「義足」という「かたち」を象徴するものを選ぶあたりもさすが。