黒川 博行『蒼煌』

蒼煌

蒼煌

次期芸術院会員の座を狙う日本画家の室生は、京都画壇の代理人と呼ばれる男を参謀に立て、現会員への接待攻勢を仕掛ける。日本画壇の最高峰は派閥闘争や権力闘争、金と陰謀が渦巻く伏魔殿なのだ。


京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒に高校の美術教師という著者のキャリアならではの作品。日本画壇というとっつきにくそうな世界が舞台なものの、生臭さは健在。
二つの椅子を四人で争うのですが、東京と京都それぞれ二人ずつ候補者がいるため、実質は京都の二人で一つの椅子を争う図式。一方の候補者は荷物持ちやら運転手やらとこき使われる弟子の視点で描かれ、もう一方の候補者は自らも画家(まだ売れてない)である孫娘の視点で描かれています。選挙を戦う当事者ではなく側近の視点なので、冷静な視点なんだけど、それぞれにも思惑があったりするのですよ。
いやー、汚いわ。権力って汚いわ。世の中すべて金ですわ。権力を得たいがために、金をばらまく、他人を陥れる、利用する。そうして権力を得た後は、今度はかかった金を取り返そうともらえるもんは全てもらうと。そんなんで芸術が生み出せるのか?なんて当たり前なことを思うのだけれど、人格と作品は別なのですよ。絵画は政治の取引として使われることも多いらしいので、いろんな感覚が麻痺してるんだろうな。
とにかくもう、室生という画家のおっさんが下世話でたまりません。室生サイドの語り手である弟子と合わせて芸術家というよりも別の世界の人のようです。この二人は妙に馴染む。重々しい舞台なのに読みなれた感覚。
暴露小説ってわけでもないだろうけど、実際こんな感じなんだろうなぁ。全くそっち方面の知識がない自分がちょっと情けない。知ってるならばニヤリとしちゃうこととかもあったりするんだろうな。芸術院とか画塾とか事前に調べて読むと更に面白さが増すはず。これから読む人は是非下準備をしてから読むことをお勧めします。