黒川 博行『切断』

切断 (創元推理文庫)

切断 (創元推理文庫)

首が千切れるほど喉を刺され、血塗れで発見された入院中の患者の死体。死体の耳は切り取られ、そこには別人の指が差し込まれていた。続いて舌を切り取られた死体が発見され、その死体は別人の耳、前の被害者の耳が咥えさせられていた。猟奇的な連続殺人。被害者の繋がりは?犯人は何故身体の一部を切断するのか?そして犯人の正体は?


びっくりしました。タイトルの通り「切断」、死体から一部分切り取り、次の死体にくっつけるという行為の意味が最大の謎なわけですが、完璧な理由付けだと思った。その理由が明かされた瞬間は「???」分かるんじゃないの?・・・と思ったけど、ちょっと考えて納得。不自然な切断部位だなぁと思っていたら、ちゃんとした理由がありました。 盲点でしたね、これは。
千街晶之氏の解説が完璧すぎて、ほとんど同じことを書くようですが、既刊の黒川博行警察小説コレクションとは全く雰囲気が違います。これまでは警察の視点で描かれていて、魅力的な刑事達が事件を解決するというまさに警察小説といった感じだったのが、この作品は警察と犯人両方の視点で描かれています。刑事達の会話はいつものように軽妙とは言えず、どこか押さえ気味。そして視点が犯人に変わると無機質で荒涼としていて、薄ら寒くなるほど。千街氏は、“関係者の誰にも−被害者にも加害者にも−共感が禁じられ”と書いてますが、まさにその通り。感情が入り込む余地なくひたすら凄惨な物語が進んでいく。共感することが許されない復讐劇。読者は傍観者でしかないわけです。これもまた、千街氏の解説とかぶってしまいますが、犯人があまりにも上手に手際よく殺人を重ねることができすぎるんじゃないか?という無茶さの向こうに意思の力、復讐を完遂させるというその思いの強さを感じた。犯人の内面が全くといっていいほど描かれていないのに、犯人の底なしの憤りと狂気を感じた。ただただ凄かった・・・としか言えません。
それから、単行本と文庫で結末が異なるそうですが、私も文庫版ラストの方が好みだな。あとのことをなんにも考えていない(少なくとも一部分は吹っ飛ぶよな)ところがこの世の果てって感じで美しいとすら思った。