新堂 冬樹『背広の下の衝動』

背広の下の衝動

背広の下の衝動

背広と言えばサラリーマンですよ。職場でも家庭でも疎んじられるかわいそうなオッサンの話「邪」に、某国民的アニメファミリーの一員として、嫁の実家で暮らす婿の話「団欒」に、温厚でいい人を装っているものの、実は小心者で嫉妬深いオッサンの話「嫉」。主人公はみんなサラリーマン。
それから後味の悪さでは今年一番じゃないかと思う、ひたすら暴力描写が続く「部屋」の4本収録のブラック新堂短編集。


ショボい男はお手のものですからね、「邪」は安心して読めますよ。いっつも思うんだけど、新堂作品の小心者たちはみんな言い訳うまいよなー。「邪」の主人公も素晴らしい言い訳してくれてます。それを別のことに生かせないか?とマジで思う。なんか典型的なダメ男ダメ親父ダメリーマンで、社会派作品かと思って間違って読んでしまったサラリーマンとか死にたくなるんじゃないかと思った。『人情刑事熱血編』見てー!


一番ウケたのが「団欒」。いいのかなこんなん書いちゃって・・・。○スオさんってタバコ吸わなかったっけ?トイレだけが唯一の息抜き場所で、そこでこそこそタバコを吸う○スオさん。ありえる。国民的一家団欒シーンの裏側で密かにトイレでタバコを吸い憎しみの炎を燃やす○スオさん。いいなぁー、いいよなぁ。善人顔に見えるけど、眼鏡はずしたら実は目が怖いんじゃないかと思ってたんだよ。


4作中最長作品「嫉」ですが、新堂作品としてはちょっと毛色が違うタイプの主人公。妻と娘を含め周囲の人から見ると好印象っぽいのですよ。年頃の娘と普通に会話しちゃったりして。勤務先は弱小だけど、特に疎外されてる風ではない。一見、ダメじゃなさそうなの。でも温厚仮面の裏にいる本当の自分は、卑屈で嫉妬まみれでドス黒いと。主人公の心の動き方は、新堂ならでは。かってにどんどん膨らます妄想っぷりも凄いし、妻を犯す時に鼻フックしまくるなんて普通書けないでしょ。趣味としてジュースの王冠集めを設定したのはナイスだなー。実は小心者って性格をよく表してるし、しかも物語の重要な要素として上手くつかってました。やればできんじゃんかよー新堂(超生意気)。


「部屋」は本気で吐きそうになった・・・。お前動物好きちゃうんかーーーーーー!!!
最後の最後でこんなにも捩れた、哀しい愛の物語を持ってくるところが、今年の新堂を象徴しているのではないかと思った。