中山 七里『復讐の協奏曲』

復讐の協奏曲

復讐の協奏曲


御子柴礼司シリーズ。
前作が「殺人容疑を掛けられた母親の弁護人を務める御子柴」の話で、今作は「殺人容疑を掛けられた経営する弁護士事務所事務員の弁護人を務める御子柴」の話って、身内続きでそれってどうなの?
という、不満じゃないんだけど12ヵ月連続刊行なんて冒険したせいで御子柴シリーズまでこういう形で駆り出される羽目になるのかーというちょっとした呆れ?のような気持ちで読み始めましたが、読み始めちゃえばいつも通り一気読み。



以下、内容に触れてます。



今回は<死体配達人>に殺された少女の「友達」の視点から始まり、現在では「この国のジャスティス」を名乗る人物がネットを介して元死体配達人である御子柴の弁護士職の懲戒を求め、多くの「匿名者」がその動きに乗り弁護士会と御子柴の事務所には大量の懲戒請求書が届いたところから物語が始まります。
冒頭の“視点”が現在御子柴の事務所で事務員として働く日下部洋子のものであることは明らかで、現在では懲戒請求でてんてこ舞いという状況の中で洋子が殺人の容疑で逮捕されてしまうので、今回の鍵は当然「日下部洋子」であり、洋子の容疑を晴らすために洋子のことを調べる過程で御子柴は日下部洋子という人間のことを何も知らなかったことに気づき、今では「当たり前」に御子柴のサポートをする洋子が御子柴の過去と間接的に関わりを持っていたことが解り、事務員として御子柴の前に現れた洋子の目的はなんなのか?なにを考え事務員として働き続けているのか?が御子柴目線で描かれる一方で、御子柴に対する懲戒請求騒動の首謀者である「この国のジャスティス」の正体という問題が並行して描かれるので、当然両者は一つになると思うわけですよね。洋子の事件と懲戒請求の話がどう繋がるのか?というところを目指して読み進めるじゃないですか。

えーっと、『偶然』でした・・・。

繋がりがないわけじゃないんですよ。繋がりはしっかりあるんです。でも洋子が殺人の罪を着せられたのは正真正銘の『偶然』でしかなかったと解った瞬間思わず宙を見上げて「ふーっ」となってしまったよね・・・。

洋子が逮捕された理由は「凶器に指紋がついていたから」で、洋子は凶器(ナイフ)に一切見覚えがないと断言しているのでそこにどんな仕掛けがあるだろうかと、なにをどうして凶器に洋子の指紋を付けることができたのか?と思うじゃないですか。

えーっと、『凶器のナイフは洋子と被害者が事件当日に食事をした高級レストランでカトラリーとして出されていたものでした。つまり洋子は普通に、思いっきり凶器に指紋つけてました』ってことでした・・・。

食事をしに行ってテーブルの上にあったカトラリーのことなんて普通は覚えてないだろうけど、食事に使うナイフであることは写真を見て判別ができるのではないかと思うわけで、凶器として見せられた写真のナイフが「前日」に行った「高級レストラン」のものだと思い至らないもんかなーと、警察だって“凶器”について調べるだろうに、容疑者と被害者が事件当日に食事をしていたレストランのナイフだってことにすらたどり着けないとかポンコツにも程があるだろうと。

それでも一気読みできたのは、洋子の過去を調べるなかで御子柴の「感情」が描かれ、御子柴礼司という人間がまた少し深まったことと、洋子不在の穴を埋めたのがまさかの宝来先生!だったから。
今回の御子柴は感情が結構揺れていて、母親の弁護を行ったときですらブレなかった御子柴なのにどうした!?という違和感のようなものが少なからずあったりしたわけですが、宝来とのやりとりは「いつもの御子柴」でそれによりバランスが保たれていたから。つまり今作のMVPは宝来です!!。