中山 七里『境界線』

「護られなかった者たちへ」の続編です。

東日本大震災から10年という時間が経過したものの、東北の街は未だ復興したとは言えず、主人公の笘篠もまた「大事な者を護れなかった」後悔を抱え続けているなかで、笘篠の妻の死体が見つかったところから物語は始まります。しかし自殺と目される遺体は妻ではなく、だが妻の名前と住所が記された身分証明書を持っていた。やがて遺体の身元が判明し、日本中に名の知られた犯罪者の娘であることが判る。それでもなぜ妻の身分証を入手できたのかはわからない。続けて今度は顎を砕かれ十指を切断された遺体が発見されるが、これも笘篠の妻と同様に震災で行方不明となっている男の名前の身分証明書を持っていた。

という物語ですが、生活保護といった福祉の問題を扱った前作と比べて、今回は表紙に書かれているように「売る者」と「買う者」、被災して行方不明扱いの人間の戸籍が罪を犯した者や加害者の家族により「身分を奪われている」という話なので、ずぶずぶと気が滅入るような感じにはならなかった。

物語の軸は「災害被害者の戸籍を売買してる「犯人」捜し」で、笘篠の捜査過程とともに犯人側の視点として過去回想的に当時のことが描かれるので震災描写は前作よりもむしろ多いというか、ダイレクトなのに、それでもそこまで気鬱にはならなかったのは時間の経過もあるのだろうか。笘篠の時間も、現実の時間も。

事件を経て、妻と息子の失踪宣告申込書を記入する笘篠は決して「区切りをつけた」というわけではないのでしょうが、声を上げて泣けたことはよかったと私は思う。