中山 七里『彷徨う者たち』

「護られなかった者たちへ」「境界線」に続くこの作品は『宮城県警シリーズ』と名付けられているそうで(初めて知った)、このシリーズは今作で完結とのこと。

前2作の主人公は震災で妻を喪った刑事・笘篠で、笘篠の物語としては前作でひとつの区切りがついて、今作は笘篠とコンビを組む蓮田の物語です。
南三陸町で3人の友人ときょうだいのように育った蓮田は、とあることをキッカケに3人とは疎遠になってしまう。父親の仕事を理由に仙台に移り住んだため、震災で「なにも失わなかった」蓮田は仮設住宅で死体が発見されたことで故郷に戻ることに。

という始まりで、過去と現在、失った者と失わなかった者、友人としての自分と刑事としての自分、葛藤し続ける蓮田の心情が描かれますが、笘篠はなにをしてるかといえば「密室殺人の謎解き」でして、この両者がぶつかることなくひとつの物語として成立してるのはさすが。

笘篠の物語としては前述した通り(私のなかでも)区切りがついているので、これ以上なにを描くのか?と読む前は思っていたけれど、「失わなかった者」が抱える罪悪感は確かにこのシリーズで描くべきことだろうし、それを描いたうえで、震災とは関係のない「友情」の物語として着地させたのはこの苦しいシリーズの到達点という意味でも中山さんの優しさを感じる。