- 作者:赤松 利市
- 発売日: 2020/03/06
- メディア: 単行本
東日本大震災ののち、東北は再びそれに匹敵する「アウターライズ」に襲われる。その後発表された死者数はわずか6人。そして東北の知事たちは日本から「東北独立」を宣言する。中国がそれを承認すると各国もそれに続きついに日本も承認せざるを得なくなり、「東北国」が誕生した。それから三年後。一切の情報が遮断され鎖国状態にあった東北国が開国するにあたりジャーナリストたちが招待される。東北国誕生の背後に誰のどんな思惑があったのか、その時東北ではなにが起きていたのか。
物語の構成としては、アウターライズが“始まる”ところから始まり、市の防災責任者と市民たちによりその時・その瞬間の様子が多視点で描かれ、その中で「自衛隊」が展開していたことを読者に知らしめ、それから三年後に三人のジャーナリストがそれぞれの思惑のもと「東北国」を取材するというものなので、ジャーナリスト目線で「アウターライズの真相」であり「東北国誕生の謎」にじわじわと迫っていく・・・ということであることはわかるんだけど、それでも物語の方向性がさっぱりわからないんですよ。
ベーシックインカム制度を採用し、あらゆる職業はすべてギルドの元運用されそこに政府は一切の介入をしないという東北国。元は(つい3年前までは)日本の一部だったはずなのになぜそんなことが可能なのかとか財源はどうなっているのかとか、そういう現実的な疑問ではなく(それを内包してはいるんだけど)三人のジャーナリストが求める「スクープ」が漠然としているから。
おまけに東北国の首相以下中心人物たちはキャラ設定が突飛すぎるし(首相がアニメ声を出す必要があるか?と)、これは一体なにを描いた(描こうとしている)作品なのだろうかとたくさんの「??」を抱えながら読み進めると、やがて「黒幕」の存在が見えてきて、その黒幕がなにをしたのかが解ってくるとそれがなかなかのトンデモだもんで、いくら小説だからとはいえはっちゃけすぎではないか?と、東日本大震災という「現実」を物語のど真ん中におきながらこれはさすがにどうなの?と憤りのようなものを感じたんですよね。
で、次の瞬間「死者6人」の理由が解る。
物語の冒頭で「アウターライズ」を事前に察知していたかのごとき描写があるのですが、それがどういうことだったのか、まるで津波が来ることを「知っていた」かのとごき自衛隊の動きの理由が明らかになるのです。
この瞬間「ブワッ」となった。
ああ、赤松さんがこの荒唐無稽な物語(とあえて言う)のなかで描きたかったものはこれだったのかと、こみ上げずにはいられなかった。
現実的な話ではないのだけれど、そこにある「想い」。現実的ではないからこそ、その「想い」が響きました。
そしてラストエピソード。オリンピックの話で〆るのかと思いきや、このクライマックスはずるいよー!こんなん泣いちゃうじゃないかー!!。
東日本大震災を物語のなかにあらゆる形で置き、描いた作品をこれまで結構読んでいますが、東日本震災のあともう一度津波が東北を襲うなどというド直球のアプローチでありながらこれほどまでにエンターテイメント性の高い「面白い」作品はなかったです。読めてよかった。