柳 広司『象は忘れない』

象は忘れない

象は忘れない

東日本大震災、中でも原発による被災者たちを様々な立場から描いた短編集です。
この作品についてhttp://shukan.bunshun.jp/articles/-/5966 こちらで柳さんが語ってらっしゃいますが、読みながら私が思ったことの答えがここにありました。
各話のタイトルが「黒塚」や「卒塔婆小町」といったものである理由も。
あの日あの時のことが、そこから派生し、今も継続中である世界史に残る大事故のことが「小説」として残ることも必要だよなと思うし、柳さんの余計な装飾のない冷静でソリッドな文体はそれに適しているとも思います。
でもあまりにも救いがなさすぎて・・・・・・。
震災をテーマにした作品を読む機会が増えましたが、どれもみんな希望とか祈りとか、そういうものがあるんですよね。現実はまだまだ希望なんて見えない人々が大勢いるのだとしても、せめて小説の中だけでも・・・という想いを読みながら私は受け止めたりしていたのですが、この作品にそれはない。小説の中ですら救いを与えない(与えられない)こと、それが柳さんの向き合い方なのでしょう。