東 直己『スタンレーの犬』

スタンレーの犬

スタンレーの犬

中学で両親を亡くし、札幌の街で1人生きる19歳の少年<ユビ>は他人を説得することを仕事にしている。今回の仕事は58歳の女社長<香奈>と一週間旅行に行くこと。この依頼の背景にあるのは、香奈に対するクーデター計画。そのことを知りながら、少年は香奈と旅をする。

久々に、警察に喧嘩売らない東氏の小説を読んだ気分。
家を飛び出した少年が、ひょんなことから裏の世界で生きる大人と出会い、使いっぱしりのようなことをしながら街で生き、そして大人になっていく・・・とまぁよくあるパターンで、リアリティからは程遠い一種のロードムーヴィー風ファンタジー小説。・・・なんだけど、この心にグサグサ刺さる感覚はなんなのだろう。時折挟みこまれるユビと香奈の過去(エピソード)が、気持ちとして分かるか分からないかギリギリの切なさで、甘っちょろいんだけどでも悪くない。タイトルの「スタンレーの犬」の話は特に、なんかいい。その話の使い方というか意味はピンとこなかったけど。
ただひたすらに前を見るでもなく上を見るでもなく、過ぎた過去を悔やむでもなく現在を諦めるでもなく、淡々と日々を生きる。そういう生き方をしていても、いい思い出も悪い思い出も出来るんだよなぁと思った。そしてそれが生きるってことなのかなぁと思った。「着実で、現実的で、そして誠実な諦念が、結局は世界を維持して来た」と香奈が作中で語るのですが、コレ私が漠然としてなんだけど、よく思うことだ。なんかちょっとだけ安心した。