百田 尚樹『ボックス!』

ボックス!

ボックス!

全く存じ上げなかった作家さんなのですが、新聞かなんかに掲載されていた書評で私が大好きな「風が強く吹いている」や「一瞬の風になれ」とスポ根青春小説として同列に並べて絶賛してるものを見かけたので手に取ってみました。結論から言うと、「風が強く〜」で感じたような感動やらときめきやら興奮やらは感じられませんでした。それには明確な理由があって、「風が強く〜」の良さというかわたしがこの小説を好きな理由は、突き詰めれば一人ひとりの物語なんだけどでも“群像小説”であるという点に尽きるのです。そして群像小説でありながら10人それぞれが掘り下げられていて、全員を愛おしく思えるからなのです。そういう目で見るとするならば極論を言ってしまえば駅伝というスポーツでなくとも構わないわけで、そういう意味では私にとっての「風が強く〜」はスポ根小説ではないのかもしれません。対してこの小説は鏑矢というやんちゃで野生的なボクシングの天才少年を軸にして、鏑矢に憧れる秀才だが苛められっ子の幼馴染の少年と、鏑矢とまるで漫画のような運命の出会いをした女性教師の二人の目線で語られます。鏑矢視点では描かれない。扱う題材も究極の個人競技であるボクシングなので当然群像劇にはなりえないわけで、つまり全然別物なんですよね。って当たり前なんですが、事前に書評を読んだせいでボクシングに賭ける“少年達の熱い青春小説”が読めるんだと先入観を持ってしまった私のミスです。書評ってのも良し悪しだよな。
で、先入観を取っ払って読んだとしたら、きっととても面白く読めたのだと思う。かなりの文字数を使ってボクシングという競技の説明や試合描写が為されているので、ボクシングというスポーツに全く興味がない人はきっと退屈してしまうと思うのですが(そもそもそういう人は最初からこの本を手にすることはないか)、幸いといっていいのでしょうか、私は格闘技全般が大好きなので単純にボクシング小説として楽しむことができました。アマチュアボクシングはプロと比べて言ってしまえば“地味”だし、作中で書かれているように安全性を保つためとても多くのルールがあるので試合自体にドラマ性を持たせるのは難しいのではないかと思っていたのですが、その点は予想外というか期待以上の面白さでした。むしろ試合描写が一番惹きつけられたといってもいいぐらい。
でも期待してたいわゆる“キャラ萌え”はできなかった。前述の通りそういうものを求めて読んだ私が悪いのですが。ボクシングとは孤独な競技だということをふまえた上で、ボクシング部の仲間やライバルとの関係をもうちょっと掘り下げてくれたらグッと女子目線として“熱さ”を感じられただろうなぁと思うと残念というか、もったいないなーと思う。女ってのは男の友情が大好きなんだもの。確かに主人公の一人である秀才・優紀と正反対の性格をしてる(ボクシングの)天才・鏑矢の友情には滾りました。いわゆるウサギとカメ的な話に留まらず、二転三転する二人の関係性はとても読み応えがありました。そこに『努力』ということがいかに大切かというメッセージも織り込まれてるし、これは良かったと思う。でもそれだけじゃ足りないのです。せめて超高校級と言われているライバルの背景や心情をセリフとして語る形でも構わないので描いてくれたらもっといろんな妄想ができたのになーと思いました。なんでもかんでも妄想したがる自分の癖が恨めしい。次は先入観ナシで読みたいと思います!。