登場人物はベテラン俳優と若手俳優二人だけで、二人が過ごす「劇場」での時の流れ、関係性の変化を描く二人芝居です。
キャストを変え何度も上演されている作品ですが、わたしは堤真一と中村倫也による今作が初見です。
舞台の前部が二人の楽屋で、階段を上った舞台後方がステージで、現実の客席の反対側に二人の俳優が立っている劇場の客席があるという空間で繰り広げられる「二人の時間」は残酷なものでした。
そう感じるのは堤真一が演じるベテラン俳優・ロバートに視点を添わせる割合が多かったからだろう。
始まりは40代ぐらいだったのかな?舞台終わりの楽屋でメイクを落とすロバートのところへ帰り支度を整えたこちらは20代であろう中村倫也が演じる若手俳優・ジョンがやってくるんだけど、この時はロバートの言うことは全肯定のジョンなんですよね。その日演じた舞台の良かったところ悪かったところ、キャストや演技について違う感想を抱いていても、とにかくロバートの言うことに必死で耳を傾け全力で「ですよね!」と答えてるんだけど、そこから時が流れるなかでジョンの口調がフランクに変わり、やがてロバートの言うことを聞き流すようになり、その存在を疎ましく思うようになる。
時の流れをパーカー→良質のセーター→ジャケットと服装で解りやすく「見せる」だけでなく声音を変えて伝える中村倫也のジョンに対して、堤真一のロバートはずっと同じ格好なんですよね。
舞台上では20年~30年ぐらいの時が流れてたと思うんだけど、その間ロバートは同じコートを着て同じスーツを着て同じ帽子を被り続けてる。
それはロバートにとっては「いつまでも変わらない」という気持ちの表れなのでしょうし、もしかしたら「時よ止まれ」という願いの表れなのかもしれないけど、「ガワ」は変わらないからこそ「中身」が老いていくのがわかってしまうわけで、それは誰の身にも、もちろんわたしの身にも起きること(いやもう起きつつある・・・)だから気が滅入った。
ていうか堤真一の老け演技がすごいのよ。最初のターンでバスローブを脱いでランニングシャツ+パンツ姿になるんだけど、わたしの記憶のなかの堤真一よりもずいぶんと「ガリガリ」で驚いたんですよね。おそらく年齢の経過を逆算して身体を細くしたと思うんだけど、舞台で大失態を演じたあと、手がすべって剃刀で切っちゃって血が止まらないとオロオロする場面とかもうガチの老人にしか見えなくて、なんなら自分の親と重なってしまってなんとも言えない気持ちになったんだけど、でも演じてるのは堤真一なわけで、今目の前でオロオロしてる老人が堤真一だと理解することを脳が拒絶して、逃げ出したくなった。見ていられなくて。
自分の親を重ねてしまったとは書いたけど何十年という長い時が流れているなかで二人のプライベートについては全くといっていいほど語られないんですよね。
結婚したり子供が出来たりといった人生のイベントや孫が可愛いといった「劇場の外」の生活について、二人が語ることはないんです。
二人、というか主にロバートがジョンに語り教えようとするのは演技について、俳優としての在り方といった話ばかりなので、この物語における「ライフ」とは「俳優人生」ということなんだろう。
だから自らの失態によって舞台をぶち壊してしまったあと、スタッフが帰宅するからと退出を急かされながら劇場のステージに残り、万感の思いを込めて「おつかれ」と言うロバートに「この先の人生」があるのだろうかと考えてしまう。
友人と会う予定があるからと先に帰ろうとするジョンが「明日まで20ドルを借りても?」と言ったのは、明日もまたこの劇場で会おうという意味だとわたしは思う。そうであってほしい。
わたしが観たのは東京千秋楽公演だったので、カーテンコールでお二人からちょっとした挨拶があったんだけど、「疲れた。膨大な台詞量で脳がパンパン」だと笑い、何が飲みたい?と聞かれ「ビール!・・・あ、一番搾り!!」と言う堤さんはいつものお茶目カッコいい堤さんで、幕が下りる瞬間までのあの「老い」はなんだったんだ!?と改めて脳がバグった。役者ってすげえなホント。
楽屋で対話→舞台で共に演技をする が1セット(それをなんども繰り返す)という構成なのでその時々に演じる役の準備をしながらの対話となることが多いんだけど、基本ノーメイクっぽいジョンがアイラインを入れる舞台メイクをする時があって、アイライン引いた瞬間中村倫也の顔がキリッとなったのに驚いた。舞台上の倫也くんを何度も見てるけど特にメイク映えするなと思ったことはなかったんで、ちょっとアイライン入れただけでそんなに顔変わるんだ!???って。
そしてふわふわした役よりもピリピリしてる中村倫也のほうが好きなので、特に遭難してボートで海を漂うシーンの読み合わせをするところでのロバートに苛立ちを隠さないジョン(ていうか中村倫也)がとても好きなヤツでした。しかも本番は水兵スタイル。最高。