朝井 リョウ『武道館』

武道館

武道館

子供のころからアイドルに憧れていた少女が実際にアイドルになり、アイドル活動する中でアイドルとしての自分と本当の自分の間で悩んだり苦しんだりしながら武道館を目指すのかと思いきや、ただそれが「アイドル」というものであるだけで、他の何かでも置き換えは可能な自分探しの物語であった。
この作者はアイドルに対し興味はあるけど思い入れはないのかなぁ?。これまで何作かこの人の作品を読んだことがありますが、例えば「チア男子」と比べると題材に対する愛情度が段違いなんですよね。チア男子は対象への愛が文章からビンビン伝わってきたもんですが(それがいいか悪いかは別の話として)、これはそうでもない。作中で描かれているNEXT YOUというアイドルグループのみならず、アイドル(界)というものに対し一線引いているというか、他人行儀なんですよね。
で、これ結局何が言いたいのかなーと思いながら読み進めてたんだけど、残り40ページぐらいのところで出会ったこの一文

私はね、両立しない欲望を叶えてしまうっていう点で、女性アイドルは、日常に現れた異物なんだと思ってる

これかと、“この人にとって”アイドルとは「異物」なんだなーと、この瞬間ストンと嵌った気がした。
だから何の特別な感情もなくアイドルに「アイドル」と「女」という選択肢を与えることが出来るんだなーと。
そこですっぱり選択できてしまうこと、捨ててしまえること(葛藤を描かないこと)、それもふくめて「異物」なのだろう。
小説としての感想は可もなく不可もなくなんだけど、これはこれで興味深い視点であった。