五條 瑛『スパイは楽園に戯れる』

スパイは楽園に戯れる

スパイは楽園に戯れる

このところ読書アンテナのメンテナンスをサボりがちなんで、五條さんの新作が出ていることを知らず書店で見かけた瞬間駆け寄ったわけですが、帯に「葉山隆」の文字を見つけて思わずその場で小躍りしました。
というわけで、これは鉱物シリーズの続編・・・だと思っていいのでしょうか?。小説推理で連載されていた当時は「パーフェクト・クォーツ」というタイトルだったものが単行本化するにあたりこのタイトルに変わったそうで、私としては鉱物がついていない以上番外編と捉えるべきだと判断したいところなのですが(であれば四部作になるという鉱物シリーズがまだまだ続くということになるので)、物語の鍵となる「ヨハン」という人物について完全に“持越し”だし、番外編であるならばこの作品単独で読めるものでなければならないとも思うわけで、うーん・・・タイトル変更に加え内容も加筆ではなく削除されてるエピソードやらなにやらがあるそうだし、そこいらへんをどう受け止めればいいのだろうか。
ってのはそれとして、相変わらず坂下を筆頭にJDや洸、そしてエディに弄られたり、可愛い子ちゃんだの職場のマスコットだの白雪姫だの相変わらず葉山に向かう矢印全部にニヤニヤさせられるんだけど、なんと!いっても!!これですよこれ!!!
ヨハンについて調べる過程で浮かんだ“火蛇”と呼ばれる女専門の凄腕情報屋に会えることになった葉山が「女にしか会わない」という火蛇がなぜ自分には会ってくれたのか?と聞くんですよね。すると火蛇はサーシャの存在を口にするのです。

「彼、元気ですか?」
「元気だ。君は安全で、しかも退屈しない人間で、子供のように無邪気で女のように我が儘で老人のように疑い深く、無意味に繊細で、そして我々と同じく祖国を持たないエトランゼだからぜひ会ってみるといい・・・・・・とね」

どっひゃああああああああああああ!!!
気持ち的にはひっくり返った。電車内で読んでるんで実際にそんなことはしませんが(いやできませんが)、気持ちとしてはわんこのように腹出して完全服従状態でした。
「安全で退屈しなくて」「子供のように無邪気で女のように我が儘で老人のように疑い深くて」「無意味に繊細で」「祖国を持たないエトランゼ」
サーシャの中の葉山盛られすぎ・・・・・・・・・・・・っ!!!!!
いやあ、これを亮司に聞かせたい!サーシャにここまで言わせる男がいることを亮司に思い知らせたい!!・・・・・・と思いかけたけど、でもサーシャと亮司の関係は遥かうえの高みに達してしまったからなぁ・・・。となるとちょっとしたスパイス程度にしかならないか。って、あれ?革命シリーズと鉱物シリーズって時系列上はどういう関係なんでしたっけ?。今作の時点ではまだ革命シリーズのラストを迎えてないのだとしたら、葉山の存在は踏み台のようなものか。葉山のキャラ的にどっちにしても美味しいな。
とか考え過ぎて汗ダクになりました。しあわせ。


とまぁいつもながらそっち方面はいい意味で相変わらずではありますが、葉山は急激に成長してるというか、いよいよ本格的にHUMINT専門のアナリストとしての才能を開花させつつあるなという感じ。いつものひとたちはまぁいつも通りなんだけど、今回初めて会うひとたちがこぞって葉山を「おもしろい子」だといい認めるんだよね。だから葉山はそれなりの情報をしっかり引きだせる。人脈含め今回はほぼほぼ葉山自身の力、能力でもって情報を集めそれを元に筋道をつけてる。それによる(この物語の)結末は無力・・・無念・・・やりきれないものではあるし、仲上さんは勿論、葉山の中にもなにかを残すことになるのでしょうが、でも涌井という男の人生として、これはなすべきことをした結果であるわけで、なるべくしてなった結末、ということなのだろう。『この国』にそこまでする価値があるのか?という思いを含め、こういう余韻が残るからこそ私は五條作品が好きなのだ。