『空白を満たしなさい』最終話

徹生の死の真相が見えてきたタイミングで千佳が抱える闇の片鱗もチラチラ見えてきてはいましたが、最後の最後でこれまた凄い「親子関係」をぶっこんできたな・・・。
千佳が「視る」子供の自分、自分で書いたというTシャツの文字と母親の言動からして幼少のころからずっとあんな扱いをされ毒を注ぎ込まれて生きてきたのでしょうが、徹生の死後あまりいい関係ではなかったっぽい徹生の母が千佳を見直しその人間性が良いのは「親がいいからだね」と言ったこと、これをどう受け止めればいいのかとずっと考えてる。

だって息子を連れて突然訪ねてきて娘を褒めちぎる復生者となった娘の夫に対し、表立って反論めいたことを言うことはないんだけど、この夫婦、特に母親の心にはさざ波ひとつ立っていないのだろうなとしか思えなかったもん。そこにどんな理由があるのか、千佳の両親がなぜ“こういう人間”であるのかについて説明が一切なくとも“そういう人間”なんだということを“解らせる”木野花さんの存在力があまりにも強くて。

それでも徹生の母が千佳に対し好感を抱いたのは徹生によって強引に作られた「千佳の両親と一緒に食卓を囲む時間」があったことで千佳の気持ちが(ほんのひと時であっても)穏やかであったからであるというのなら、徹生がしたことに、徹生が「再び生きる時間を得たこと」に意味はあったのだろう。

タイトルをそこにあてはめるならば自分の死を理解し受けとめ、残された・残されることになる家族に対して「何か」をしたと実感することができたことで徹生の「空白が満たされた」のだろうし、再び残されることになるかもしれない千佳たちは復生者となって戻ってきた徹生と過ごした時間を得たうえで改めてそれぞれ「空白を満たしていく」しかないのだろう。

そしてそれは徹生以外の全ての復生者とその関係者にとってもそうであったならばいいなと思う。
その願いを具現化したのが徹生からの手紙を読んだ佐伯が浮かべた表情、ゴッホに囲まれたあのまるで宗教画のような佐伯の姿なのかな。


このあと徹生は璃久を抱きしめることができたのだろうか。できたらいいなとは思うけど、わたしはできずに消えたと想像します。だって原作・平野啓一郎だからね。