櫻田 智也『蝉かえる』

蝉かえる (ミステリ・フロンティア)

蝉かえる (ミステリ・フロンティア)


第10回ミステリーズ!新人賞受賞作である「サーチライトと誘蛾灯」の続編?です。
続編のうしろに「?」と付けた理由は、サーチライト~とはずいぶんと雰囲気・空気感が違ったから。
サーチライト~では探偵役“でしかなかった”「虫好きの魞沢泉」ですが(探偵として事件の真相を解明するというよりも、魞沢が事件をひも解くことで関係者の本音とか真意といった感情を浮かび上がらせる、というタイプの作品集でした)、今作では「魞沢泉」という人物そのものを描いていて、サーチライト~では虫への情熱に対し人間の命への興味の薄さに「この主人公怖い」と思った記憶があるけど、今作でその印象が180度ひっくりかえりました。いやむしろめっちゃ情が深いやん!って。

虫をモチーフとした短編集であることは前作と同様ですが、今作は3篇目の「彼方の甲虫」と最後に収録されている「サブサハラの蠅」が連作の形になっていることもあって、1冊の本として読み応えがありました。なかでも「ホタル計画」がミステリーとしての面白さと物語の面白さが両方あって好みですが、でも私結構なところまで「バッタくん」が「魞沢泉」だと気づいてなかったの・・・。時代設定についてのヒントは明らかだったしそれ以前にバッタくんでなければ魞沢の存在がどこにもないのに、私ポンコツすぎるだろう・・・。