古処 誠二『いくさの底』

いくさの底

いくさの底

第二次世界大戦中、ビルマの山奥の村に駐屯している小隊を率いる青年将校が赴任初日の夜に殺害された。殺したのは敵か、敵性村人か、それとも隊員か・・・という物語で、(私が読むのは)久々の古処さんが描くミステリに心躍らせながらページをめくりました。
が。
やっぱり戦争小説だった。所謂「犯人あて」であり、作中に犯人の視点(犯人の語り)が挟みこまれるミステリ小説なんだけど、でもやっぱり戦争小説。古処さんの、古処さんにしか書けない戦争小説でした。
途中どころか終盤までは時代設定と置かれている環境こそ特殊ではあるものの完全にミステリのつもりで読んでいたのですが、犯人に目星がつき、そして真の動機であり心情が明かされる頃には戦争というものにたいする怒りと、愚かさと虚しさと、そしてこの時代に生きる者の大半にはどうすることもできない無念であり、非情でなければならない時代に打ちのめされてた。敵ではなく日本兵、日本国民ひとりひとりに植え付けられた国民感情が引き起こした事件であり奪われた命であり、これはまさに「いくさの底」。
なんのために戦っているのか、なんのために生き、なんのために死ぬのか。
ミステリ仕立てでとっつきやすくて読みやすいだけに、ダイレクトに突き刺さる。
そしてこれは作り話でありながら作り話ではないわけで、こういう時代を経ての今私が生きている時代があるわけで、なんかもう、どうにかしなきゃならないと思うしどうにかしてよと思うけど、でもどうにもならないだろうと思ってしまうわけで、はーっ、どうしたらいいのだろうか・・・と内臓が苦しい。