新堂 冬樹『黒い太陽』

黒い太陽

黒い太陽

池袋のキャバクラ「ミントキャンディ」に勤める新人ホールの立花篤は、尊敬する父親の入院費用を稼ぐために嫌悪する水商売の世界に身を投じていた。篤の唯一の支えは、店のナンバーワンキャスト千鶴の存在であり、彼女もまた篤と同様、事情を抱えていた。風俗王の異名をとる「ミントキャンディ」のオーナー藤堂は、篤に夜の世界の住人としての才能を見出し、目をかけて育てようとする。始めは乗り気でなかった篤だが、藤堂の後継者と目される天才ホール長・長瀬の働きぶりを目にし、夜の世界の魅力に取り憑かれていく。どんどんと夜の世界に染まる篤を千鶴は冷たい言葉で拒絶。その背後にいる藤堂から風俗王の座を奪う為、退店した篤は渋谷にキャバクラを立ち上げる。


久々にブラック新堂が読めるかと期待したのですが、なんなのこのアッサリ感。キャバクラの裏側ってこういうもんだろうなと想像するまんまでして、どうしてこれで「ここまで書かれると商売がやりにくい!」と歌舞伎町のキャバクラ店店長が絶句(帯より)するのか分かりません。何?世の中のアホな男どもはマジでキャバ嬢が店で会う女の子のまんまだとでも思ってんの?裏で悪口言われてることも、キャバ嬢同士で足の引っ張り合いしてることも当然のことだと思うわけですが、これを読んでショックを受ける男がいたりするわけ?という感じ。キャバクラ界の裏側が読みたい!と思った人はきっとガッカリすると思う。
どんな業界モノを書こうとも、例え内容がなかろうとも、そこに新堂らしさがあればオタとしては満足できるわけですが、全くらしさはありません。暴力描写は全くないし、同じ人間だと思いたくないほど矮小な人物がでるわけでもないし、セクシーヴォイスもないし、悲しくなるほど新堂を読んだ気がしない。逆に言えば、暴力やエログロが嫌いな人など多くの人が読める大衆小説だということなんだけど。やたら小突き回されるハゲチビで卑屈な性格の中年オヤジとか、背が高くてセクシーボディでピアジェはめてヴェルサーチ着てるオトコマエとか、それらしき人物は出てくるんだけど、でもこれまでのその手の人物達と比べると明らかに普通の描写でしかなく、痒いところに手が届かないー!的なもどかしさを感じました。
完璧に主人公の立花目線の物語なのですが、それはそれで分かりやすい描き方ではあるんだけど、立花の心理描写しかないもんで他の登場人物の印象が薄く、特にその人間性を含め風俗王藤堂の凄さがどれほどのものなのか伝わってこないので、立花と藤堂の闘いの物語としても弱く、独りよがりな物語になってしまったと思う。続きがありそうなラストなので、藤堂に関してはこれから描くつもりなのかもしれないけど。

さーて、毒蟲VS溝鼠を読む前に、溝鼠を読み返さなくては。ウホウホウホー!!!