三羽 省吾『厭世フレーバー』

厭世フレーバー

厭世フレーバー

リストラされた父親が突然失踪。残された家族はそれぞれの想いを抱える。

完璧帯に騙されましたよもう。「“俺がかわりに殺してやろうか”全力疾走のはてに少年は血の味を知った」ですよ!どんな素敵少年犯罪物語なのかと思うじゃないですか普通。いやー、騙されちゃった。まんまと釣られちゃった。人っ子一人死なねーでやんの!クソッ金返せ!・・・・・・・・・って思いたいんだけどさぁ、これがなかなかいいんですよ。
父親に失踪された家族(中学生の次男、高校生の長女、20代後半の長男、母親、失踪した男の父親)が章ごとにそれぞれの視点で語る構造なんだけど、最初の次男は語り口といい青臭い思考回路といい、でたよ大人が無理してイマドキの若者口調で書いちゃってるよ、痛いなぁってなもんだったんだけど、長女、長男と物語が進むにつれて、なるほどあれは意図してのことだったんだ!と気がつきました。子供達の章は、それぞれの年代の不満だったり悩みだったり感情のもてあましっぷりはそれなりにリアルだったりするんだけど、でも話としては盛り上がりに欠けるし「ふーん・・・」ぐらいの感想でしかなかったんだけど、長男話のオチから母親、爺ちゃんの話の流れはやたらとドラマティック。日本の歴史を遡る。尚且つ、爺ちゃんの章まで来ると、失踪した父親像がそれぞれの思いや語りを通して浮かんでくる。で、ラストはやっぱ家族の再生ってったら駅伝(マラソン)でしょ!ですから。構成勝ちです。
いい意味でなんだけど、一番近い他人は家族だよなーと思った。他人(家族含め)が自分をどう見てるか、自分の言葉は他人にどう伝わっているのか、きっと自分が思ってるのとは違ってたりするんだろうけどそんなことは当然で、それでもまぁそれなりに生きていけるんだよ人間は、とか思った。