『中村仲蔵~歌舞伎王国 下剋上異聞~』@東京建物ブリリアホール

結論から先に言うけど、素晴らしかった。たいへん面白かったです。
中村仲蔵の物語、中村仲蔵の人生が面白いわけだから面白いに決まってはいるけど、舞台作品として期待を超える面白さでした。

その理由はなんといっても藤原竜也
中村仲蔵という役を演じてはいるんだけど、舞台俳優藤原竜也の情熱とむき出しの魂が中村仲蔵という特異な天才歌舞伎俳優を具現化させたという感じで、もはや両者が一体と化してる。

「やりてえ芝居ができないなら、死んだほうがマシだ。」

それは中村仲蔵の言葉であり、藤原竜也の言葉であった。

それだけで十分というか、それ以上の言うこと(残すべき感想)がないんだよね。

演出の蓬莱竜太さんが中村仲蔵藤原竜也が重なる感覚、それは「孤独」ではないかと思ったとパンフレットで仰ってるんですが、まさにそう!まさに「孤独」を感じたし、その「孤独」内包し体現できるのは蜷川幸雄がいない藤原竜也だからだと思う。
わたしは今でも「蜷川幸雄が演出する藤原竜也」に絡めとられているのですが(その自覚は重々ありました)、ようやっと「蜷川幸雄」が頭をよぎらない舞台の上の藤原竜也を観ることができたことで、ようやっとその呪縛から解放された気がします。

とはいえ劇中で「灰皿を投げないでください」というセリフを仲蔵が言うんで蜷川さんが浮かぶ瞬間はあったんですけどねw。


歌舞伎界独特の「身分制度」を見た目として表現するセット、その使い方が素晴らしく、その階級の最下層、奈落の底に奉られるお稲荷さんとして池田成志を配役してるところが巧い。もうこれだけで勝利確定ですわ。
成志パイセン演じるコン太夫は「見えるひとにだけ見える」存在で、この舞台のなかでは髙嶋政宏演じる市川團十郎(歌舞伎界のトップオブトップ)と仲蔵だけ。
この設定だけで仲蔵の「才能」が伝わるし、コン太夫が文字通り「神」の視点で仲蔵が「5年で名題まで出世する」と告げることで、その5年を端折り一気に名題となった仲蔵を見せても物語として「理解」ができる。
そして名題となった仲蔵の『外郎売』で客の度肝を抜くという、この流れが実に見事。

まあ、歌舞伎好きとしてこの外郎売外郎売とは言えないなってところはあるんだけどさ、それでもこれだけの長尺台詞を「聞かせる」ことができる竜也はやっぱりすごいわ。

そして諸手を挙げて「素晴らしい」と言いたいのが中村仲蔵がスターとなったキッカケである「斧定九郎」のシーン。
名題役者となった仲蔵が定九郎というこの時点では取るに足らない端役しか与えらえない理由の描写を含め、なまじ「型」の知識があるだけにあらためて仲蔵型が今日まで受け継がれていることの“異常さ”であり“異能さ”を改めて思い知らされた。
次に五段目を観るときは絶対に藤原竜也中村仲蔵を重ねて観ることになるだろうし、これまで以上に定九郎のカッコよさに酔いしれることができるだろう。

これほどストレートに最高の藤原竜也を観たー!!と思いながら劇場をあとにするのはひっっっっっっさびさだったんで、その喜びをかみしめつつも役者という人間はつくづくおそろしいなと思わずにはいられなかった。
竜也、おそろしい子!。