新作歌舞伎『流白波燦星』@新橋演舞場

「歌舞伎役者が演じればなにをやっても歌舞伎になる」とは言いますが、イマドキの言い方をするとこのこの作品は「普通に歌舞伎」でした。
歌舞伎に登場する「石川五右衛門」が実在した安土桃山時代ルパン三世(流白波燦星)と次元大介峰不二子と銭形警部(銭形刑部)を「置いた」だけで、あとは完全に歌舞伎のフォーマット。

だから普通に歌舞伎なんだけど、その歌舞伎の世界(観)のなかにルパンたちが違和感なく馴染んでるんだよね。
同じ劇場なので名前を出すけどナウシカ歌舞伎が名前こそナウシカだけどかなり歌舞伎的改変をしていたのに対し、こちらは愛之助流白波が「ルパ~ンさ~んせ~い」とか「ふ~じこちゃぁ~ん」とか結構な勢いでアニメのルパンに寄せてるんだけど、繰り返すけど違和感がないのよ。この親和性の高さには驚いた。

物語の仕掛けとして「その昔、機械仕掛けの不死の体と未来の技を持つ「饒速日の一族」がこの星に天下り、一族の一人である卑弥呼がその技を金印に封印して隕石の中に隠した」という設定があって、その封印を解くための雄龍丸と雌龍丸という雌雄一対の刀があって、この刀と「天下一の大泥棒」の名を巡って流白波と五右衛門が争い、さらにこの時代を治める天下人である太閤・真柴久吉がカラクリ兵団を率いて世界征服を目論み不死の体になるべく卑弥呼の金印を手に入れようとしているというあらすじなんだけど、人外まで登場する(あ、2幕の幕開けに「通人 萬望軒」としてマモーも登場しますw。役割としては1幕ラストの「だんまり」の説明なんだけど、町人に「なんだあの顔色!?」って驚かれてるし、マモーのつもりで見て間違いないと思うw)(演じるのは片岡千壽さんですが、萬望軒のブロマイドがあって当たり前に買ったよねw)けどそういう異分子をすべてまるっと取り込めてしまう歌舞伎の器のデカさを改めて感じます。お隣の歌舞伎座では初音ミクさんと歌舞伎やってるしね。

タイトルロールは流白波燦星ですが、流白波と次元はお宝を盗むために変装し銃を撃ち、不二子は色仕掛けで金持ちに取り入り、銭形のとっつぁんは「ルパン!逮捕だー!」と“いつも通り”で、この“いつも通り”が成立してること自体すごいんだけどさw、物語の「主人公」としては石川五右衛門でして、表記でわかる通りこの五右衛門はルパン一味の「五ェ門」ではないんです。
でも流白波が五右衛門の命を助け、そして二人は「一騎打ち」をし(その勝負は勝敗が決まらず次元の預かりとなり)、久吉と唐句麗屋銀座衛門に連れ去られた不二子と糸星太夫を救出すべく共に敵陣へ乗り込むこととなり、そこで五右衛門は愛する女・糸星を斬らなければならないことになるのです。
苦渋の末に糸星を斬り、糸星の遺骸に雄龍丸と雌龍丸を捧げる五右衛門。
するとそこから一振りの刀が生まれ、その刀は「斬鉄剣」と名付けられる、という作劇なんですよ。
この物語は石川五右衛門が「石川五ェ門」になる物語だった、ということがラスト近くで判明するんです。
これは上手い。歌舞伎の世界にルパンたちを「置いた」だけの物語が、最後にちゃんと「ルパン三世」に帰結するのはお見事。

演出は言ってしまえば歌舞伎作品のパロディでできているようなものだし(それはそれで面白いし、ちゃんと適材適所の演出にはなってます)、まあ新作歌舞伎にありがちの「本水」演出はいらなかったと思うけど(石川五右衛門はともかく全身ずぶ濡れになって一騎打ちする「ルパン三世」はわたしのなかにはいないもん)、糸星太夫と久吉の近習頭・長須登美衛門の関係性、唐句麗屋銀座衛門の正体をフックにし、テンポよく局面が変わる話運びはとても面白かった。楽屋落ちはクドイけど(弥次喜多なんかもそれが厭だったんだけど、戸部さんの趣味なのだろうか・・・)。


そしてこれはぜひとも書き残しておきたいんだけど、石川五右衛門と流白波燦星と次元大介が初めて「会う」のはまんま『楼門五三桐』で、そこに部下を連れて銭形がやってきて南禅寺でドタバタ捕物帳となるわけなんですが、ここで和楽器で歌舞伎風にアレンジしたルパン三世のテーマが流れるんです。
つまりアニメで言うOP(曲が終わったあとでアニメのあのBGM付きでサブタイトルが文字表示されるからマジでOPよ)なんだけど、この演奏は録音なんですよね。

歌舞伎は普通生演奏なんで役者の動きに演奏を合わせる形(であることが多いだろう)だけど、今回は録音だから役者が音に合わせなければならず、そこがどうかな?と思ってたところなんだけど、ここで松也がどこだったっけな・・・“たとえるなら空をかける一筋の流れ星”のあとの音だったっけな・・・ちょっと定かじゃないんだけど、音とビッタリ合った殺陣をキメててこれがもう超絶カッコよかったの!!。
あまりにカッコ良すぎ&気持ちがよすぎてゾクっと鳥肌が立ってブワっと涙が噴出してしまったんだけど、このカッコよさが歌舞伎で味わったことのないものだったんですよね。
動きに合わせる生演奏だとどうしたって音がコンマ数秒遅れるけど、身体を合わせるとこんなにも痺れる殺陣になるんだなーと、例えていうなら劇団新感線的なカッコよさで、それがいいのかわるいのか、演出の意図なのか違うのかはわかりませんが、とにかくべらぼうにカッコいいので歌舞伎はワカランと思っている人にこそ見て欲しい!!

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身体の動きというと、中村鷹之資くんの殺陣もキレッキレ!!。というか鷹之資くんにこんなに美味しい見せ場があるとは思ってなかったんで、見事に果てたあとダッシュで写真売り場に行って写真全買いしましたわ。
尾上右近くんも真逆の2役をしっかりどころかもはや余裕で切り替え演じてて、松也さんと三人でこの作品の「動」を担ってるんで刀剣乱舞歌舞伎にハマった方もぜひぜひ配信を!お正月にでもぜひとも!。