『吉例顔見世大歌舞伎』@歌舞伎座

わたしにとって「法界坊」はイコール中村屋なので、市川猿之助で法界坊と聞いたときは違和感しかなかったし、その「中村屋の法界坊」にいい思い出がなくって(舞台自体は面白かったのでしょうが、近くにいた強烈な中村屋至上主義の客が心底ムカついて、気持ちを切り替えられず舞台どころではなくなってしまったのです)結構なトラウマになってるんですよね。だもんで、猿之助さんの初役は是が非でも観たいが法界坊かあ・・・・・・と散々迷った挙句、猿之助さんだけでなく坂東巳之助くんに尾上右近くんに中村隼人くん、中村種之助くんといった若手が配役されていることもあって、チケットを取りました(仕事を早退できなかったんで残念ながら楼門五三桐と文売りは観られず。吉右衛門さんの石川五右衛門は拝見したかった・・・)。

観てよかった!超たのしかった!トラウマ?はぁなにそれ??(でた手のひら返し!w)。

いやもうホント、前半はとことん楽しいバカ話で後半は凄惨この上なく、休憩を挟んでの大喜利は情念タイムといった感じでまさにてんこ盛り。
要助とおくみがイチャイチャ痴話げんかしてる背後で「鯉魚の一軸」を巡り法界坊と源右衛門がそれぞれ偽物とすり替えるくだりのコントっぷりも面白かったけど、要助の恋文が法界坊、法界坊の恋文が甚三に拾われ、要助に恥をかかせてやろうと思ったはずが自分の恋文をみんなの前で読まれて法界坊赤っ恥!の場面なんて猿之助さんが隼人くん(要助でなく完全に隼人くん相手だったw)に「ねえねえ今どんな気持ち~?」とばかりにねちっこく絡むもんで、隼人くん完全に下向いて笑っちゃってるわその背後で右近くんも笑い堪えるのに必死で顔が伸び切ってるわw、八月でもないのに歌舞伎座の舞台でコレっていいのか?と思いつつも猿之助さんがめちゃめちゃ楽しそうなのでいいぞもっとやれって思ってました(笑)。

猿之助さんの法界坊は身体と表情で笑わせてくるんですよね。見た目は醜悪といっていいほどの汚さだし、勘三郎さんや、こちらは観たことがないのでイメージですが勘九郎さんの法界坊にある(であろう)べらぼうな愛嬌はないものの、動きが滑稽で軽妙で、特に蕎麦を食べてる途中で群衆に巻き込まれ、喉に詰まらせながら拾った小判を落としちゃって、それを股間から手を出して拾おうとするのとか笑わずにはいられない。で、これはどこの席から観ても、言葉が分からなくても、だれにでもわかる「面白さ」で、猿之助さんの法界坊が目指すのはそれなのかなと、大笑いしながらそんなことを考えた。
と同時に、法界坊は肌の露出が多く、常時生足で時にはもろ肌脱いで乳首も見えちゃったりするわけですが、頻繁に腕まくりをするんですよね。すると左腕のあちこちに残る傷跡が目に入るわけですよ。しかも劇中で“自分が掘った穴に落ちる”という場面もあるもんだからドキっとなったりしたんだけど、だからこそ猿之助さんのこんなに大きな初役を拝見することができることに感謝で胸がいっぱいになる。

もしあの時もっとひどいことになっていたら、最悪なことになっていたら、きっと今わたしは歌舞伎を見ることができないだろう。わたしが観た回は寿猿さんが休演だったし、歌舞伎とは関係のないひとですがわたしの大好きな俳優さんも体調不良で舞台を休むことになってしまったこともあって、チケットさえ手に入れることができれば舞台の上にはお目当ての役者さんがいて、最高の時間を過ごすことができる、それは決して当たり前のことではないのだと、そのことを肝に銘じてこれからも一つ一つの舞台を大切に楽しもうと改めて思う次第。
この気持ち、この時こんなことを考えたよなーってのは、この先猿之助さんの法界坊を見るたびにきっと思い出すのだろう。いい思い出になりそうでうれしいな。

「双面」と外題がついているだけあって、法界坊の霊と野分姫の霊の演じ分け踊り分けも見事でした。ほんの僅かの腰の動き、脚の動きで「変わった」ことが分かるのです。わたし今までこの大喜利は蛇足とまでは言いませんがそれまでの物語の濃度に対して冗長な感じがするなーとか思ってたんですが、澤瀉型の、四代目・市川猿之助の法界坊はむしろココが一番の見どころなのではないか!?とすら思うほど、イメージを覆される大喜利でした。また好きな猿之助さんのお役が増えたよ!。

種ちゃんと右近くんに取り合いされる隼人くんに、同じ姿の猿之助さんと右近くんに取り合いされる隼人くん。いいもの見たわー。巳之助さんは正直この役必要・・・?でしたが(野分姫があんなことになってるというのにどこでなにをやっているのかと)(巳之助さん贔屓のわたしなので、いつか巳之助さんにも法界坊をやらせたいと思っての配役なのでは?とか考えちゃうんですけどねー)、目の保養もたんまりできたし、いやはや楽しいひと時でありました。