五十嵐 律人『法廷遊戯』

法廷遊戯

法廷遊戯

  • 作者:五十嵐 律人
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

久々にメフィスト賞受賞作を手に取りましたが(確認したら2015年の井上真偽さん以来読んでないみたい。読まなくなった理由があるわけではなく単に私がチェックを怠ってるだけなんだけど)、今はソフトカバーでの刊行なんですかね?それともこの作品が特別なのか?。


ここ数年司法試験の合格者を出していない底辺ロースクールで模擬法廷を使った「無辜ゲーム」というものが行われていて、三人の学生を軸にそのゲームを巡り前半は青春ミステリ的な感じで進むのですが、卒業後、三人のうちゲームで「審判者」を務めていた馨がその模擬法廷の場で刺殺体となり、その場にいた美鈴が被告人に、そして第一発見者であるセイギこと清義がその弁護人となり、後半はゲームではない実際の法廷・裁判の場で事の真相と三人の過去と因縁が描かれるという構成で、面白いか面白くないかと言えば面白かったです。とっつきにくい「裁判もの」でありながらスルスルと読めてしまうし、事件の背景になにがあるのか、それが見えてくる流れもいい意味で焦らさないし、そういう意味では面白かったと言えるのだけど、でもメフィスト賞としてはつまらん。

繰り返しますが私はしばらくメフィスト賞から遠ざかっていたので、今は殊能将之の「ハサミ男」や舞城王太郎の「煙か土か食い物」や佐藤友哉の「フリッカー式」や古野まほろの「天帝のはしたなき果実」のように『メフィスト賞でなければ』私が手にすることはなかった(出版されることはなかったのではないか)であろう愛をこめて『トンチキ』な作品ではなくこういう正統派であり、そして映像化もしやすそうな、若い世代だけでなくあらゆる世代に届くであろう(墓荒らしのパートがあるとないとじゃターゲット層の広がりが全然違うだろう)作品が選ばれているのかもしれませんし、三人の若者が選んだそれぞれにとっての罪と罰、それはなかなかにドラマティックでこれがデビュー作だなんてという驚きとともに感心しきりですが、メフィスト賞=トンチキでイメージが止まってしまっている私にとっては「面白いけどメフィスト賞じゃなくて(じゃないほうが)よくね?」という感じ。