『亡国のイージス』

8月1日「映画の日」に見てきました。そのせいかどうか分かりませんが、ほぼ満席。軍オタらしき兄さんたち3割と初老のご夫婦が6割な客層で、なんか俺浮いてる・・・?みたいな感じでございました。見終わった瞬間はこのやるせない思いをどこにぶつけてやろうかと拳を握り締めてフルフルしたのですが、何日か経って冷静になってみると、あの話が2時間ちょいで描けるわけないやんと諦められました。で、落ちついてから書いた感想です。ネタバレしまくり+原作オタなんでやたらめったら「原作では〜」とか出てくると思うんで、そういうのがいやな人は読まないでください。




ストーリーの大筋は原作通り。「ローレライ」のフリッツイネー!みたいなビックリ仰天はとりあえずナシ。ただ、忠実とまでは言えないけど、原作に沿った作りになっているせいで、逆に散漫な印象というか、社会性とエンターテイメント性がどっちつかずになってしまったのがすごく残念。専守防衛の問題だとかまともな自己判断もできないこの国に守るべき価値があるのかだとかそういう背景はあるんだけど、簡単に言っちゃえば、あの国のテロリストにそそのかされた馬鹿親父が息子の復讐のため、自衛艦を乗っ取って「謝らなければ東京湾に爆弾ぶっ放すぞ、みんな死ぬぞ」って言うだけの話なわけで、この話の何が好きって、登場人物の魅力と自衛艦自衛艦を沈めたり戦闘機を撃ち落したりする描写だったりするわけですよ。なんだけど、どっちかというと映画では政治的社会的な面に重点を置いていて、国の偉い人たちが「いそかぜ乗っ取り事件」に対してウダウダ言い合うシーンだったり、陸パートがかなり多い。ターゲットを中高年に定めたせいだろうか?誰が誰だかわからないようなオッサンたちがブーブー言ってんの見たって面白くもなんともなーい!でも、佐藤浩市演じる防衛庁情報局(ダイス)内事本部長の渥美と岸部一徳演じる内閣情報調査室長の瀬戸が「この国は一度潰れたほうがいいのかもしれない」と語るシーンはこの映画の名シーンだと思う。なんか良かった。一徳は何を演じても一徳なんだけど。この二人の関係は原作を読んでるとそれなりにニマニマなんだけど、未読の人はよく分かんないだろうな。どうせなら、渥美に頼まれて総理を足止めするために、適当なことを汗ダクで話続ける瀬戸の図を入れて欲しかった。ていうか、総理出来すぎじゃないですか?結構判断力あるように描かれてましたけど・・・。
アクションパートは、それらしき描写はあるけど結局フラットフィッシュ作戦はナシ。そして「うらかぜ」艦長阿久津のヘリハイジャック事件も「待ってろ宮津!」もなし。海に浮かぶ肉片の中で傷ついて呻くダイス隊員なんてグロすぎて無理だとは思ったけどさー、ちょっとガッカリ。当然、「せとしお」の艦長との「飲みに行くから付き合え」もないし、F-2(原作ではイーグル)撃墜もないせいで、Tプラスを落とす役目を担う宗像の複雑な思いも描かれない。男達の魂のぶつかり合いが全然ないっ!つーか2機編成で飛んでるのに、民間機に見せかけるって無理じゃね?まぁF-2がめちゃめちゃカッコよかったからいいけど。あと「いそかぜ」のCIC(戦闘情報指揮所)もカッコよかった。オレンジの表示板?が素敵。「いそかぜ」が「うらかぜ」にハープーンを撃ち込むシーンは、爆破するとこまで映して欲しい気がしたけど、緊迫感は全然ないものの、あれはあれで美しかったかな・・・と思う。艦内の戦闘シーンはまぁいいとして、最後の「いそかぜ」が沈むシーンは笑うしかないです。「ローレライ」のマンガかよ!なCGも笑ったけど、こっちはおもちゃかよ!って感じ。で、ラストシーンはアレですから。脱力。

以下、細かいキャスト感想です。

とにかくもー、ドンチョルさんカッコよすぎ!!!それに尽きる。行?誰それ?ってぐらいドンチョルさん素敵祭り。自衛官を装っていそかぜに乗船してくるので短髪にしてるのですが、これがものっそいお似合いなの。こんなに短いの久々に見た気がするわー。全編笑顔なしの冷血テロリスト。こういう役めっさお似合い。自衛官の制服なんてもう凛々しすぎて鼻血でるかと思った。戦闘服姿なんてもう万歳三唱したいぐらい。ドンチョルさんって原作ではダッサイ男なんですけどね、そこはあんた婦女子担当ですよ、仙石相手に長台詞アリ(これめちゃめちゃ下手クソだったんだけど、かの国工作員ってことで、あまり日本語がお上手じゃないっつー伏線?)の仙石との死闘アリの最後はヨンファ兄さんとのウホッらしき展開からピストルで頭ぶち抜いて自決と。めっさオイシイわー。パンフの写真もビジュアル最高です。安藤ファンなら絶対買い。あの写真一枚で1,000円の価値あるってマジで。ドンチョルさん自体は文句つけようがないんだけど、ドンチョルさんが闘う相手が仙石だってのが納得いかねぇ。勝地VS安藤のオトコマエバトルが見たかったんだよー!!なんの訓練も受けてないオッサンになんでやられてんだよと。最初に斧?みたいな奴で脚殴られるのは不意打ちだからいいとしても素手の勝負で負けるってのはどうよ?しかもドンチョルさんだけじゃなくて、ジョンヒとも対等にやりあっちゃってんですよあのオッサン。あまりにも凄すぎで、反対に行の優秀さがまったく描かれてないんですけど。
優秀さもそうなんだけど、行の描き方は中途半端すぎ。過去の回想シーンはおまけ程度で、母親の死と父親の関係や行の気持ちなんて全然汲み取れないし、田所たちと飲みに行き、地元のチンピラと喧嘩になって警察につれて行かれそうになるエピソードと、仙石が描く絵に一筆加え「お前護衛艦なんかに乗ってる場合じゃないんじゃないか?」のやりとりがあって、行が仙石に筆をプレゼントするエピソードは一続きだからこそ意味があるんだよ。二つのエピソードを別々に描いてどーすんだっての。大体このエピソードは、行がクルーの誰とも馴染まない浮いた存在だってのがあるからこそ生きるエピソードなのに、それらしき描写はなし。あれじゃ田所と菊政出す必要全くないんですけど。つーか田所は死んでこそ田所なの!そこ端折るなら田所の存在そのものを端折れ!菊政の死も、行との関係があるからこそ意味があるのに、あれじゃ単なる事故ぐらいの重さでしかないし、行が言う「俺の身代わりだ」も言葉通りの意味にしか思われないだろうな。そもそも最初から溝口=ヨンファだって言っちゃってるんだから、行が工作員なのか疑惑を描く必要はない。菊政も田所も原作ファンとしては是非出してもらいたい人物なんだけど、だからこそこんなどーでもいい扱いだったら出さないでくれたほうがよかった。
勝地は確かに表情はいいんだけど、優秀な工作員には見えないなぁ。冷静っていうより必死っぽい。ほとんど真田広之との絡みなんで、演技力の差は仕方ないとしても、行よりも仙石の方が戦闘能力高そうに見えましたよ。死んだ?テロリストの身体の下に手榴弾隠すやつはカッコよかった。行の見せ場なんで、血が嫌いでも勝地ファンは見逃しちゃ駄目。舞台挨拶で髪の毛伸びてる勝地を見ましたが、やっぱり長い方が行っぽいのに。あれも自衛隊からチェックが入ったんだろうか。
どーでもいい扱いチャンピオンはジョンヒで。びっくりした、普通に「いそかぜ」に侵入するんだもん。ヨンファとの関係も普通に見てるだけじゃよく分からないと思う。行とのキスシーンに至っては唐突すぎて???って感じ。原作では一応アレにも意味があったりするんだけど、映画は原作とは違うよなぁ。アレが行の溜めてた空気を吸おうとして・・・だとしたら宣伝ポスターは詐欺ですよ。でも原作通りの意味だとしたら、んなもん分かるかー!?なんだよな。仙石には素手で負けそうになるし、ほんといいとこナシのジョンヒさん。艦内に女の幽霊が出るって騒ぎになるエピソードもないし、ジョンヒを出す必要全くなかったような・・・。
それから、もう一人の婦女子担当、ターニー(谷原章介)の風間。一般海士との絡みが全くないせいで、クソ真面目で融通がきかない神経質な男って設定が全く見えなかったわけですが、そんなことはどーでもいいのだ。これまた制服がものっそいお似合いですのん。仙石にビンタされる風間はこれまた名シーンかと。あ、女子的にね。風間だけは原作と違ったラストを迎えるのですが、これがまたププッって感じなんですよ。エ、エェェェエ!?みたいな。まぁでもある意味仙石以上に頑張ったともいえるわけで、ドンチョルさんと風間の扱いは明らかに女子向けサービス。
密かに期待してた竹中役の吉田栄作は期待どおりの栄作っぷりを見せてくれました。ヨンファに撃たれて倒れる演技は必見です。古っみたいな。笑い堪えんの大変だったわ。
どんな役なのかと思ったダイス局員役の松岡俊介F-2パイロット役の真木蔵人はちょこっとしか出ませんでした。それでも真木蔵人はそれなりにカッコよかったけど、松岡はなんでこんな端役?と思った。同じ局員役の池内万作はそれなりに見せ場もあるのに、松岡はただいるだけですから。久々に見たような気がするんだけど、随分劣化したなーと思ってちょっと悲しくなった。
アカデミー4人男は、真田仙石カッコよすぎの強すぎ。アクションもほんとに上手いというか絵になるなぁと改めて思った。こんだけ自分のみカッコよく描かれてりゃそりゃプロモーションも張り切るわ。プルーンさんと佐藤浩市はそれなりだったけど、ヨンファは最後にもっと狂ってほしかったし、渥美は宮津の妻と接触してほしかった。まぁこれは脚本の問題なんだけど。寺尾聰宮津は威厳ナシ。ここだけはキャスティングミスだと思う。


めちゃめちゃ長い感想になっちゃいましたが、一言で言うと
ローレライ」=ピエール瀧・「イージス」=安藤政信
そんな感じ。