岡崎 隼人『だから殺し屋は小説を書けない。』

タイトルに目を引かれ、奥付を確認したらメフィスト賞を受賞し今作が二作目とあり、そういやお名前に記憶があるような・・・と自分の感想を探してみたら感想が残ってたんでやっぱり読んでたことが分かりましたが、それ2006年のことで、え?2006年?18年前??とめちゃめちゃ驚いた。
メフィスト賞に限らず受賞(デビュー)作以降新作がでずに消えてしまう作家はきっと私が思っているよりも多いのではないかと思うけど、受賞後18年経って2作目が単行本として刊行される作家はそんなにはいないのではなかろうか。
それだけでこの本を手に取る理由としては充分です。

で、読みました。
幼いころ母親にスーパーの袋に入れられた状態で投げ捨てられようとしていたところを殺しの仕事を終えた直後の殺し屋に救われ、殺し屋として育てられた「雨乞」。
ほとけ様(殺した相手)が小説を買っていて、ペット用の火葬炉で焼いている間なぜだかわからないがその小説を読んだら心臓をぶん殴られ、それから作者である椿依代の作品をすべて読み全作品全文暗記し、そのうち自分でも小説を書くようになった殺し屋が主人公です。
殺し屋の育て手であり元締めである「和尚」に言われいつものように仕事に取り掛かる雨乞は、殺す相手のスマートフォンに届いたメールを目にします。そこにあるのは「椿依代先生」の文字。今自分が殺そうとしている相手が作家の椿依代であることを知った雨乞は、椿依代が殺される理由である殺人事件の「真犯人」を椿とともに探すべく、和尚に1日の猶予を求める。

という始まりなんですが、歳の離れたバディものかと思いきや次から次へと殺し屋が出てきてトンデモバトルを繰り広げ(伊坂さんの殺し屋シリーズを思い出す)、その中で胸糞エピソードが語られて、最後はタイトルの意味が分かって感動するという、なかなかに情緒がたいへんな作品でした。まさか吉之進くんが癒し枠だとは。

仕事として多くの人間を殺してきた雨乞が心を取り戻す物語としてはハッピーエンドでいいんだけど、でも花時計が働いていたゲストハウスの皆殺しがあるんだよな。一般人に被害がなかった(命を奪われる人がいなかった)ならこの終わり方でいいけど、これだけ凄惨な巻き込まれ殺人を描いておいてその後始末をしないところは引っかかる。
読んでる最中は必要な描写というか、新たに登場した殺し屋がいかにヤバイ奴か瞬時に理解できる描写ではあったけど、読み終わってみるとこの皆殺しだけが物語のなかで浮いてるんだよな。