音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』プレビュー公演@THEATRE1010

7公演あるプレビュー公演のちょうど真ん中4公演目を観ました。

オリジナルの新作作品であり、ミュージカルではなく音楽劇としているところに期待と不安どちら?と言えば圧倒的に不安の方が大きかったんで(というか公演を観た今となってはなぜにあのキービジュアルにした?あれはなんのつもりだったんだ?と強く問いたい「白塗り」が不安の主な理由です。歌唱披露や事前に公開された稽古映像を見てなおハードルを上げる気にはなれなかったほどの白塗りパワー・・・)、思ったよりも「良かった」。

W主演のダ・ポンテ役海宝直人さん、モーツァルト役平間壮一くんを筆頭にキャストはしっかり役を掴んでる感じで、不安に思うところがほぼほぼなかったのはプレビュー公演であることを考えると素晴らしい。
でもそれは伸びしろが感じられなかったということでもあるんだよね。作品全体としても役者個々人としてもここからどう進化するのだろうというワクワク感はない。
プレビュー公演の時点で75点取れてることはすごいんだけど、ここから加点できてもせいぜい5点で20点はありえなさそうというのがプレビューを見終えたところでの感触です。

と書くとあんまり芳しくない印象に思えてしまうかもしれませんが、「75点」は取れてますからね?。あの白塗りを見せられた瞬間の絶望を考えれば75点は3000点に匹敵しますからね?(自分で書いていて意味がわからないw)。

そして色男・海宝直人は1000000点です。

ニューヨークで妻と書店を営む年老いたダ・ポンテが回想録を作ったところから物語が始まり、ダ・ポンテの人生が描かれるのですが、老人として登場し、オープニングナンバーを歌い上げ、次に登場するときには色男になってるという、この掴みがすこぶる卑怯でちょっと腹が立ったわw。

本公演も観るつもりなのでちゃんとした感想はそこで書ければと思っていますが、ストーリー的には結構ざっくりなんですよね。
“80年を超える人生でダ・ポンテが才能を開花させたのはモーツァルトと出会って過ごしたわずか4年と6カ月の間だった”と公式にあるんでモーツァルトと過ごした時間を抽出して描くのかと思いきや、その4年と6カ月が中心ではあるもののその前後、ダ・ポンテの一生を描いているので結構な駆け足なんですよ。
それに曲は多くても「音楽劇」なので曲のなかで感情をガッツリ歌うということもなく、ダ・ポンテという人間をしっかり描けているかと言えばそれほどでもない。

タイトルにあるようにダ・ポンテとモーツァルトを並べて「天才」として(その瞬間は)描いてはいるけど、でも元々二人の立場(生い立ち)は全く違うわけで、そこを掘り下げることはしないんだよね。
ダ・ポンテがモーツァルトのイマジネーションをゴリゴリに刺激する詩(台本)を書くことができるのはダ・ポンテがユダヤ人のゲット―生まれであり名をロレンツォに変えて聖職に就いたものの女性問題を起こしてヴェネツィアから追放されウィーンにやってきたという背景があるからだよね。そこまで生きてきた環境がモーツァルトだけでなくサリエリや「貴族たち」とは違うからこそそういう視点を持ち得てるのだろう。
そしてこのときモーツァルトもまた誰にも認めてもらえない状態ではあるけど、宮廷作曲家の父に英才教育を施され天才少年として宮廷でピアノを演奏してきたモーツァルトとは「誰にも認められない現状」の中身が違うと思うのよ。でもそこに触れられることはない。
フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」と作品が認められたものの宮廷詩人をクビになるのもその背景に「生まれ」があるにせよ描写としては才能を認めてくれていたヨーゼフ2世が死んだから、というものになってる。
ウィーンから去らねばならなくなったダ・ポンテとモーツァルトは別れることになるんだけど、そこでモーツァルトが「自分の作りたい音楽を作ることができれば名声などいらない」と言うのに対しダ・ポンテはあくまで認められることを、再び名声を得ることを諦めないとすれ違ってしまうのはやっぱり二人の生い立ちが違うからだろうに(とわたしは解釈した)舞台上では「ここで二人は別れました」「そしてそのあとモーツァルトが死んだことを知りダ・ポンテは絶望しました」という、小説で言うならば「地の文」のような描かれ方なんですよ。

なので「物語」としては理解しやすいけど、「人物」としては浅いとはまでは言わないけど描写として満ち足りているとは言えないかなというところなんですが、それでも最初に書いたようにキャストがしっかり役を掴めているように感じられたんだよな。
だからこれ以上役を「深める」余地があるのだろうか、という意味で「伸びしろあるか?」と思えてしまった。というプレビュー感想です。

あとこれはおそらく観劇した全ての人が不安に思っただろうけど、このままブリリアに持っていくのは厳しくないだろうか。
シアター1010のステージサイズにぴったりのセットだけど、これをブリリアの舞台に置いたら左右上下スッカスカにならないか・・・?(クリエが良かったのにーの意)。

お目当ての相葉裕樹さんはダ・ポンテとモーツァルトと「敵対する」ということで、「敵役」はわたしの知る限り相葉っちは初めてだと思うんでそれについては楽しみなもののステレオタイプな嫌味サリエリだったら厳しいなーと思ってたけど、キャストが「VIVA!イタリア!」とか歌う人が悪いヤツであるはずがないと言ってた通り“愛される敵役”だったんでわたし大勝利です!!。なんならサリエリ先生一番美味しいw。
正直に言うと最初は不満ってんじゃないんだけどモーツァルトは壮一くんでいいけど相葉っちでもよくない?などと思ってたんですよね。でもこの作品のモーツァルトは天真爛漫な音楽の神に愛される天使のようなキャラクター像でして(だからくるくるパーマヘアなのだろうか?)、これは相葉っちではないわ(笑)とモーツァルト登場2秒で納得したし、サリエリ先生で大正解w。

でも、でもでもVIVAイタリア!は1曲通してサリエリ先生に歌い上げていただきたかった・・・。