妻を亡くし気力を失い新聞社をやめて女性誌で契約ライターとなった男が主人公で、読者からの投稿で幽霊が出るという踏切の取材を命じられるところから物語は始まります。素材となる写真と映像はプロのカメラマンでも説明ができないもので、調べを進めると1年前に起きた未だ身元が判明していない若い女性の刺殺事件が浮かび上がる。
帯には「感動」「幽霊譚」の文字があり、妻を亡くした男が主人公であることだしまあ“その手”のヤツだろうというつもりで読み始めたんですが、踏切に現れる“幽霊”は早い段階で殺人事件という“現実”と結びつき、そこからは殺された女性の身元を明かすことを主軸として事件の取材となるんだけど、それが結構な“巨悪”が絡んだサスペンスだもんで完全に予想を裏切られました。もちろんいい意味で。
舞台が1994年なので、被害者女性の身元がなかなかわからないことや、踏切に出る幽霊の“噂”が広がらないことなど、SNSが未発達な環境であることも逆に新鮮でした。
そんな物語はちゃんと「幽霊譚」として着地する。その死を誰にも認識されずにいる女性の無念をひとつひとつ掬い上げることで、「妻を亡くした男」が救われる物語となる。
“男の妻の幽霊”を安易(とあえて言う)に出したりせずに主人公の再生を描いたところがとてもよかった。