伊岡 瞬『悪寒』

悪寒

悪寒

大手製薬会社に勤める主人公は業界の慣習に従い行った不正の責任を負わされ地方都市へと出向を命じられる。創業者一族の役員に短期間で本社に戻すと言われたもののその気配がなく、家族とも疎遠になり不安と鬱屈を抱えているところに妻から「家の中でトラブルがありました」という支離滅裂なメールが届く。そのトラブルとは妻がその創業者一族の役員を撲殺したというものだった。というのが序盤で、そこから文字通り“何一つ知らない”主人公が事件のことのみならず妻や家族に何があったのかを知る過程が描かれるわけですが、所謂「事件の真相」に辿りつくことが目的ではなく事件をキッカケに主人公の中年男が妻子との関係性を再構築するためのスタートラインに立つ物語でした。
主人公自身の物語にはぜんぜん興味を持てなかったものの、妻とその妹、娘、認知症の母、義母、職場の部下といった女たちはそれぞれ結構イイ性格してて、作中に何度も登場する「もらわれっこ症候群」は娘との共通点であり姉妹の関係性を説明するためだけのものかと思いきやそれが事件の「鍵」であり物語の「肝」であったという展開も後味含め好みだし、最後まで楽しめました。