芦沢 央『夜の道標』

学習支援塾の経営者が殺害され、それから2年後が物語の舞台です。
容疑者は判明しているものの、犯行後の足どりがぷっつり途絶え行方が分からないまま捜査本部は縮小され、今では2人の刑事が継続して捜査を行っているという事件が主軸で、捜査を行う刑事の視点と、容疑者を自宅で匿う女の視点と、容疑者と奇妙な形で出会う少年と、少年の友人の視点で描かれる物語はエモかった。
少し前、帯にデカデカと「エモーショナルなミステリ」と書かれた作品を読みましたが、(それと比べてどうこうということではなく)これはエモい。私の基準ではこれぞエモ。

視点人物たちはその年齢性別立場によって、それぞれの事情や想いを抱えて苦しみながらも現実を生きていて、そこに「殺人犯」という存在が現れることで非現実な時間を得ることになるんだけど(刑事にとっては仕事という現実だけど)、殺人犯の元同級生の女と父親から当たり屋をやらされている小学生男子との交流によって、その視点は描かれない、文字通り何を考えているのかわからない殺人犯として指名手配されている人間を描きつつ、殺人犯が匿われていた家を出て、逮捕されるまでの流れ(と刑事の視点によってとある法律が事件の鍵であったことが解る流れ)が実にドラマチックだし、小学生男子の「おじさん」との別れ、このクライマックスは思わず泣きそうになってしまった。私も年を取ったものよ・・・(と実感せずにはいられなかった)。