『封刃師』第6話

駆の師匠・悟堂真の登場によって大きく物語が動いた前回に対して今回は、これまでで最も「静か」な回でした。駆ほとんど寝てたしね。

でもそのぶん「心」が描かれた。鎮冥鞘師・カレンの心、本家の跡継ぎ・翔の心。それぞれの先代の心。そして駆の心。

6年前、五百津肇が悟堂真を斬る瞬間を駆は「見てた」。
穢刃と戦い続けるなかで、封刃師が穢れを少しずつ溜めてしまうこと、そして溜め続けた穢れはやがて封刃師を外道にすること。その時は相棒によって斬られること。それが相棒の役目であること。
それを真さんから「聞かされた」だけでなく、その瞬間を「見る」ことを恐らく真さんに命じられたであろう駆はそれを見るために、どれほどの覚悟をもって閉じていた目を開いたのだろうか。それは未来の自分の姿かもしれないのに。


6年前、相棒である悟堂真を斬った肇は息子に封刃師を斬るための刀を渡す。

「重いね」
「終わったあとはもっと重くなる」

その重みを抱えて生き続けてきた肇は、同じ重さを抱えることになるであろう息子にそれ以上の言葉を掛けることなく、ただ刀を渡す。
父親から手渡された相棒を斬るための刀を振るい、その感触を確かめた翔は、何かを決意した顔になりスーツに着替えて鎮冥鞘を掴む。
穢刃を持つ男を封刃しに行こうとする息子を止める父。

「駆には任せられない。あいつの身体はボロボロだよ!」
「それではお前もボロボロになるぞ!!。それは許されない。お前は、生き残らなければならない。封刃師の技を残すために。それが本家の役割だ」
「それでまた戦わせるのか!?あいつが人間じゃなくなるまで!!」


一方カレンは駆を治療すべく運び込んだ寺の住職・円哲に寺の仏像を鎮冥鞘の材料にできないかと相談する。

「人が消えない鎮冥鞘を作りたいんです。穢刃を封刃したとき、穢れだけを吸い込んで取り憑かれた人はこの世に残す。そんな鎮冥鞘を。だからあの仏像だったらって・・・」
「確かにお前は親戚筋では一番の才能があった。だが、してはいけないことはある。・・・作れなかったんじゃない、作らなかったんだ」
「え?」
「穢刃の持ち主をこの世に残すということは、刃に操られていた時の罪を背負ったまま生きる、自分の意志ではなく、刃に操られ人を殺めた時の感触を持ったまま生きる、そういうことだ」
「はい」
「その罪を背負わせて、ふたたび生を与えることは、こちらの傲慢だとは思わないか?」
「え・・・?」
「自分たちは人殺しじゃない。封刃師がそう思いたいだけの逃げではないか。封刃する側も罪を背負う。人を消すという重荷を背負う。だから先人達は、人が消えない鎮冥鞘は作らなかった。全てのことには理由はあるんだ」
「でも、罪は償えませんか?生き残って自分の罪と向き合い、その罪を償う、その機会を作ることはできませんか?。人は弱い。それはわかってます。でも、でも私はそれでも人を信じたい!」

そんなカレンを師匠は集められた廃仏を納める蔵に連れて行き、「お前の思いに応えてくれる仏はきっといる」とだけ告げる。


肇と翔のやりとり、カレンと師匠のやりとり。
封刃師の歴史のなかで、同じようなやりとりはきっとこれまで何度も何度も繰り返されてきたんだろうな。
その時々で、穢刃を封刃するために戦う者たちはみんな同じ痛みや苦しみを抱えて、それでも堪えて呑み込んで「封刃師」を続けてきたのだろう。


前回、たまたま三條の血が製作途中の鎮冥鞘に付着し、その後封刃される穢人の姿が一瞬「残った」ことでそこに因果関係というか、それは「特別なこと」なのではないかと思わされアレコレ考えたんだけど、そっか・・・「作れなかった」のではなく「作らなかった」のか。
鎮冥鞘師が、封刃師が背負わなければならない罪の重み、背負い続けた歴史の重み、師匠の言葉に頭を殴られたような気がした。


で、そんな師匠が穢刃になってしまうんだよね・・・。
「テツヤ」が自ら出向いてきた悟堂真によって穢刃にさせられてしまった(この寺、結界的なものは張られていなかったのだろうか)のは封刃を通して「駆に自分の姿を見せるため」だろう。
カレンも言ってたけど師匠には付け入られる穢れなどないであろうわけで、であれば穢刃を受ける駆がテツヤさんの記憶を通してみるのは斬られた瞬間、「鬼神」(この字でいいのかな?)を振るう真さんの姿しかないもんね。

自分が外道になった「理由」を逆手にとって、今自分と同じ道を歩みつつある弟子にその「理由」を通して『真実』を突き付けるとか真さん酷すぎるでしょ・・・。
ただでさえ人崩れの印に苦しんでいるのに「こんな形」でフードの男が真さんであることを駆が知ることになるだなんて、その苦しみを誰よりも知ってる真さんがそれをするだなんて、こんなに非道なことってないよ。

真さんは真さんなりの「目的」があってこんなことをしてるのではないかと希望込み(いやほとんど希望)で思ってたけど、6年前と同じく駆に「見せる」ために、そのためだけにかつての仲間を斬った時点でそんな甘い考えは捨てねばならない・・・だろうな。


テツヤさんを通して「見えた」ものに動揺しまくる駆を、自分だって師匠が穢刃になってしまったショックを受けてるだろうに「あんたの仕事は封刃することでしょ!しっかしりして!師匠もそれを望んでる!!」と叱咤するカレン。
カレンを守って斬られた傷で赤く染まった手で鎮冥鞘を握り、テツヤさんを封刃する駆。
その瞬間弟子に向かって師匠は叫ぶ。「そうか、カレン、思いを残せ!鞘に思いを!!」と。

封刃される瞬間、師匠は何に気づいたのだろうか。
「してはいけないことはある」と言いながらも、「お前の思いに応えてくれる仏はきっといる」と言ってくれた師匠のなかにもカレンと同じ思いがあったのだろうと思うのだけど、「血」ではなく「思い」が鍵になるのか?。
と同時に、三條もまた父親の残した資料のなかに何かを見つけたらしく、それは何なのか。
(三條の父親が亡くなっていることは穢刃とは無関係なのかなあ?)


越えてはならない一線はある。だけどその一線は不動ではない。
今、この時代に生きて戦うカレンの思い、駆の思い、そして翔の思いがその一線を動かすことになるのかもしれない。
(鎮冥鞘を入れたケースを背負って闇雲にフード男を探して彷徨う翔さんが完全に「裏社会の人」にしか見えず、何度職質を受けたのだろうかなどと妄想してフフッとなってでもいなければ辛すぎてツライ・・・。駆の後釜ってなんだよクソクソッ!)