スティーヴン・キング『ミスター・メルセデス』

私の中でスティーヴン・キングはホラーの人でありSFエンターテイメントの人でして、そんなキングがミステリー小説を書いて「アメリカ探偵作家クラブ賞 長編部門賞」を受賞したと聞いたときは“エドガー賞の野郎・・・日和りやがって!”ってなことを思った記憶がありますが、いざその受賞作を読み終えた今は“キングの受賞・・・ガチだった!!”になりました。
まだ夜が明けない中、就職フェアの順番待ちをしてる人々の列にメルセデスのセダンが突っ込み若い母親と幼い子供を含む8名もの人が命を落とすも事件は未解決ってな始まりで、この冒頭パートはキングっぽい雰囲気満タンでここからどんなミステリーが始まるのだろうかとワクワクしましたが、本編に突入してからしばらくは正直言って・・・さして面白いとは思わなかったんですよね。事件を担当していたものの現在は定年退職した男のもとに「メルセデス・キラー」と呼ばれる犯人から挑発する手紙が届いたことで、元刑事の男は独自に事件を解決すべく動き出すのですが、この元刑事もメルセデス・キラーもどちらもミステリー小説の主人公としてはそんなに魅力を感じないし、わざわざ『ミステリー』を書いたということはガッツリ『謎』があって『謎解き』があるのだろうと期待したのに(そういう作品だと思い込んでた)、冒頭の事件こそ雰囲気はあるもののそこからはネットを介して駆引きしあってるだけで、起承転結でいう「承」の部分が(期待値が高かったせいもあり)結構退屈で、やっぱりキングをもってしても畑違いに手を出すのは無理があったのかなーなんて、超上目線で思ったりしてました(それでもぐいぐい読み進められてしまうのはさすがキングなのですが)。
がしかし。
メルセデス・キラーが元刑事のホッジスを苦しめるべくホッジスの家に出入りする黒人青年の家族が飼ってるわんこを殺すために用意した毒入り肉を誤ってメルセデス・キラーの母親が食べちゃったことで、それまでは「過去」の話だったものが一気に「現在進行形」となり、そこからはもう怒涛の展開。ていうかわんこが殺されなくてよかった。わんこが死んでたらその時点で私は読むのをやめてました。
元刑事も犯人もキャラクターとしてさほど魅力がないと書きましたが、ある人物が作中で全く別人になるんですよ。登場当初は嫌悪の対象でしかなかったのに、気が付けばヒロインの座に駆け上がってたどころかもはや主人公。この人物の登場によって物語が一気に開花したってな感じで、クライマックスシーンのスペクタクル感と相まって興奮したわー!(ここで黒人青年の妹の目線を入れるのがさすが)。
三部作だということは事前に知っていたので、「トリオ」としてのこれからを期待させるほのぼのエンドだと思ったら・・・・・・ゾクっとさせるラストもキングらしいし、満足まんぞく!。