『決戦!関ヶ原』

決戦!関ヶ原

決戦!関ヶ原

7人の作家による関ヶ原に集った武将たちの戦いを描いた作品集です。
もっとこう・・・噛み砕いた感じになるのかと思いきや、7人ともガチンコ。
前半は家康率いる東軍パートから始まります。家康(伊藤潤さん)→可児才蔵(吉川永青さん)→織田有楽斎天野純希さん)という流れで、こちらは主人公(視点人物)を始めそれぞれの立場であり思惑でありが描かれている感じで駆け引き的な印象を受ける(その中でも正則だけは誰視点でもいつも脳筋(笑))。一方三成率いる西軍パートは宇喜多秀家(上田秀人さん)→島津義弘(矢野隆さん)と続きますが、こっちは「義」。秀家も義弘も熱い。とにかく誰かの為に生きて戦いそして死ぬ。特に義弘篇は本多忠勝蜻蛉切を手に登場してから鬼アツで、「丸に十文字の旗の下に集う侍たちによって徳川幕府が倒されるのは、この戦から二百六十七年後後のことである」という〆の一文に痺れまくり。だってこれタイトルがズバリ「丸に十文字」ですからね。燃えずにはいられないだろう!。
そして、ここで満を持して勝敗の行方を、両軍の運命を握る男、小早川秀秋のターンが来るのです。描くは冲方丁!!。
舞台は整ったと言わんばかりに登場した金吾(と作中では呼ばれていることが多い)ですが、それまでに描かれていた「金吾」とはまるで別人で戸惑った。そこには秀秋なりの計算というか処世術というか、そう見せかけることを選んだ事情であり理由があるわけなんですが、私これを読みながら頭の中で昨年の大河ドラマ軍師官兵衛)を思い浮かべていたもんで、それまでの各人による金吾はドラマであの『うむ、しょーちした』という衝撃の一言で三成と視聴者を絶望させた秀秋と結構一致してたんですよ。それなのにうぶちんの描く秀秋はむしろ知的で聡明な男だもんでマジ違和感しかなかった。「米が沢山とれるほうを選ぶ」とか一見すると(一読すると)何言っちゃってんのこの人?だけど、でも真理だよね。視点が変わればこれが小早川秀秋なんですよね。
そしてそしてトリを務めるのは勿論石田三成葉室麟)です。
三成こそ「視点が変われば」の象徴ですよね。そしてこの三成の物語によって7篇の物語を「勝者は誰だ?」という軸がビシっと貫く。
関ヶ原と言えば「徳川家康」であり「石田三成」であり「小早川秀秋」であるわけですが、参戦した武将たち全員に、武将に率いられた者たち全員に想いがあり人生がある。異なる作家が異なる主人公を描いたことで、それが強く感じられて、読み応えがありました。三成が見る家康目指して突撃する島津勢とかその時島津ではあんなにも熱いドラマが繰り広げられてたのかと思うとグッときちゃう。やはりこの時代は面白い。