齋藤 智裕『KAGEROU』

KAGEROU

KAGEROU

言わずもがなですが、第5回ポプラ社小説大賞受賞作です。発売日に書店の開店を待って買いました。
これをヒロが書いたのね・・・・・・っ(ふるふる)!と思いつつ一文字一文字を丁寧に追いながら読んだつもりですが、1時間もかからなかったよ!。文字は大きく行間もゆとりたっぷりだから目にも優しいし、本を読むのが苦手><なお嬢さんたちもきっと読めると思うよ!。


えーっと、なにやら映画化を想定して(映画を作るつもりで)書いた作品だそうですが、だとしたらちょっと納得。だってこれあらすじレベルだもん。映画で言うとプロット?。とりあえず物語の筋はあるけどそこに肉付けは一切なされてないのね。ヒロさん改め齋藤智裕さんの頭の中では場面場面が詳細に浮かび、人物はみな個性豊かな表情を浮かべているのでしょうが、本の中にそういったものは一切反映されてません。私には主人公を筆頭にそれぞれが“そういう設定”である意味も必要性も全く分からない。だから早くヒロさんの頭の中にある本当のKAGEROUを見せてください(そのためも賞金貰っておけばよかったのに・・・)。
ということを踏まえた上で、小説舐めんなと言わせてもらいたい。ヒロさんにだけでなく、これに大賞を与え出版したポプラ社に対しても。いや、ポプラ社の中でこれが「大賞」だと判断したこと自体に文句を言うつもりはありません。この作品そのものの出来だけでなく作家自身に何らかの可能性を見出したという面はあるだろうし、素人の私では読み取れなかった魅力を感じたからこそ大賞を与えたのでしょうからそれはもう「感性」の違いというかね・・・まぁそういうことだと思うから。でももう一度書くけどこれあらすじレベルよ?。映像化したならばスッカスカの行間は補えるかもしれませんが、これは小説です。新人作家の小説です。それが小説単体で勝負できないような作品ってどうなんよ?と思う。
ていうか・・・・・・・・・ヒロさんは本当にこの話を映画化して面白いものになると思ってるのだろうか。いや、ヒロさんは一応「日本一の映画、世界に通用する映画を作りたいという思いで書いた作品」と言ってるわけで、世界に通用する「面白い」作品とは一言も言ってないし、あくまでもそういう思いを抱いているということであってKAGEROUで世界に挑戦したいというわけではなく、将来的にそういう作品を作るための礎(金稼ぐ手段)とすべくこの作品を書いたってなことかもですが(でも映画化を熱望してるらしいし、でも自分が監督やら出演やらの形で映画に関わるつもりはないって、じゃあどういうつもりでの発言なのでしょうか・・・)。
しかしポプラ社の担当部署総出で右往左往(笑)しながらブラッシュアップした結果がこれかぁ・・・。やたら「〜〜だった。」と流れがない短い文章が続くんだけど、これは「特徴」と判断されたのだろうか。冒頭なんて箇条書きのようにすら思えたわ。リズムが良いといえるのかもしれませんが(いやムリw)、文章に“流れ”が皆無。そう思うと元々の応募作が読みたいわ(笑)。読み比べたい(笑)。もっと言うとこれに負けたほかの応募作を読みたい。


主人公はダジャレが好きなオッサンなのですが、
「(タバコは)すいません。吸いません。なんちゃって」
とか、
「イギリスならジンだな。イギリスジン、なんちゃって」
とか
「おかしいなぁ。お菓子屋だけにおかしいぞ」
とか
「まさかマッカーサー、でまかせで負かせ」
とか
これをヒロが面白いと思ってキーボードぽちぽちしてるとこ想像すると笑えるわ(笑)(ゴーストについてはあえて考えない方向で)。私この先どんな格好いいヒロを見てもこのダジャレ思い出して笑うと思う(笑)。これをギャップ萌えとするには私には高い壁すぎる(笑)。
それに、映像化を見越してのことか全体の半分近くが会話文なのでは?と思うほどなのですが、その会話文も
「痛っ!?ちょっとアンタ!痛テテテテ・・・わ、わかったから手を離してくれぇ!」
こんな感じなの(笑)。「痛テテテテ」も笑うけど「離してくれぇ!」って(笑)。最後の「ぇ」をヒロが書いたと思うととても笑える(笑)。
↑これ別にネタになりそうなほんの僅かの一部分を拾いあげてるわけじゃなくて、全体を通してこんな感じですからね(笑)。事前の内容説明って確か「純文学」っぽい内容を想像させるものだったように記憶してるのですが、まさかまさかの全力コメディ小説だとは思いませんでした。つくづく予想の斜め上をいく男(笑)。
死ぬつもりで屋上のフェンス登ってた男に対して
「いまの死にたい気持ちを十段階で評価するとどれぐらいですか?」
とか聞いてるのにはビックリですよ。10段階「評価」てなんやねんと(笑)。しかもこの「評価」って物語の中で結構な鍵(印象的なセリフ・・・・・・的な扱い)になってますからね(笑)。


全体の構成もバランスが悪い。「命」や「愛」の尊さ、「生きることの意味」、書きたいことってのはそういうものだと思うのですが、自殺しようとしていた主人公が所謂悪魔的存在である「裏組織」と契約するまでに全体の半分(8章中4章、236ページ中137ページ)使ってますから。その中で一応主人公が自殺を選ぼうとした理由や死に対して抱く考え方が会話という形で描かれてはいますが、最初に書いたようにあらすじレベルだからぺらっぺらなのね。それだけのページを使っていてもなお主人公の人間性は見えてこない。作中で主人公はこの状況でそれだけ落ち着いていられる人は珍しいというようなことを言われるのですが、確かにこの状況下でダジャレ等これだけの軽口叩けるって肝据わってんなーと思うわけで、そういう人間であれば自殺するしかないところまで追い詰められることもないだろうし、それでも自殺するしかなかったというならばそこに至る過程をしっかり描くべきだろう。
それでも契約履行後、つまり「死」に直面した主人公の心情がページ数に関わらずしっかりと描かれているのならばいいんですよ。読ませるべき箇所さえしっかりしてれば他がどれだけぺらぺらでも作品から感じるものは絶対にあるから。でも残念ながらそこすらぺらぺら。ぺらぺらってかぐるぐる(笑)。これは読んでくださいと言うしかないんだけど、映像化したならばギャグ演出にしかならんだろ(笑)な設定のおかげでクライマックスのつもりで用意されてるのであろうシチュエーションや会話がネタとしか読めません(笑)。
そして極めつきが最後の最後に登場する誤植修正シールwwwww。めくりたい衝動を抑えるのに必死www(書かれてるであろう文字は9割方分かるけどw)。


でも真面目な話(これまでも真面目に書いてるつもりだけどw)、特別なオプションが付いてない『普通の新人』が書いたものならば、“設定は突飛だけど、所々に顔を出す現実味が妙な味になってて、不思議な空気感の作品だと思う”といったような感想を書いたと思う。また、もし本名で応募して大賞受賞、賞金2千万とか余計な肩書きがついてない、水嶋ヒロが初めて書いた小説です!ってな形で刊行されていたならば、(例えヒロにしちゃおかしな表現があったとしても)ヒロがこういうタッチの話を書くとは思わなかった!とかさ、『俳優・水嶋ヒロ 新たなる挑戦』として内容もネタ(笑)ももっと素直に驚いたり楽しんだり出来たんじゃないかなとは思います。
実売数(売上高)がどの程度になるかまだ分からないものの、春樹越えだなんだと言われてるぐらいなので(商業的には)今回の仕掛けは恐らく『成功』と言えるのでしょうが、でもこれだけのことをしておきながら実際に世に出たのがコレって、印象としては『お粗末』としか言えないかなぁ。