遠藤 武文『プリズン・トリック』

プリズン・トリック

プリズン・トリック

第55回江戸川乱歩賞受賞作。
表題から某アメリカドラマを想像してしまったわけですが、あちらが脱獄不可能と言われる刑務所から脱出する物語なのに対し、こちらは刑務所と言う密室で殺人を犯すという物語です。わざわざ刑務所という特殊な空間で犯罪を犯した“理由”を含めて発想は面白いのではないかと思う。でも肝心の「トリック」が、これをトリックとは認めたくないというのが正直なところです。実際にこれが実行可能なのかどうかは別として(やったとしても即バレるだろう。ってかバレなかったら大変だって(笑))、全くときめかないんだもの。もう1つの密室もなぜ密室にする必要があるのか全くわからなかったし。というよりそこに至るまで何の魅力も個性もない登場人物たちが入れ替わり立ち代わり視点となるという苦痛としか言えない時間を過ごした末に明かされた結末がこれって・・・・・・?と呆然としてしまいました。それどころか恐らくこれが最大の驚きということになるのでしょうが、最後の1行がわたしには驚くよりも中途半端なところで終わってるようにすら思えて、脱力するあまり怒る気力も湧かなかった。大絶賛してる東野さんを筆頭に、選者の方々はみんな「志」という言葉を使って煽っていますが、私にはその「志」とやらは全く感じることができませんでした。設定したハードルは高いのかもしれない。でもそのハードルを越えなければ、綺麗には越えられずともせめて半分は飛ばなければ刊行する意味であり価値はないと思うのですが。少なくとも読者にとっては。新人作家なわけだし、志の高さでもなんでもいいけどそこに何がしかの将来性を見出して受賞させるのはわかります。でもこの帯はさすがに偽りありまくりだと思う。そうなんだよなぁ。何が一番腹立たしいかって、この帯ですよ。新人作家(に限らず初めて手にする作家さん)の本を読む時は多少の冒険は覚悟の上です。その上で、特になんらかの賞の受賞作とくれば帯も一つの判断材料になるわけです。その意味でこれはほんとうにヒドイとしか言えないわ。だって巻末の選評読んだらどの人のコメントも帯ほどのテンションで書かれてないんだもん。
・・・釣られた私が一番バカってことですよね・・・。