INOUEKABUKI SHOCHIKU-MIX『蛮幽鬼』@新橋演舞場

東京公演の前楽でわたしの蛮幽鬼は終了となりました。観劇感想はわりとすぐ書きたいと思う方なのですが、今回に限ってはこんなにも間があいてしまいました。それというのも、初見では刀衣役の早乙女太一くんに目と心を鷲掴みにされポーーーッとなっただけで終わったのですが、二度三度と見ているうちにいろいろと考えてしまって・・・というより考えるしかないというか、物語(脚本)そのものは結構荒い作りだったと思うのであらゆるところを自分で考えて補完しなくちゃならなくて、そうこうしてるうちにこれだけの時間が経ってしまいました・・・という感じです。


以下、内容に触れてます↓↓↓




具体的に言うと登場人物の心情が説明不足だったかなと。観客に考える余地を与えるってのはもちろん必要なことだとは思うけど、この作品はその割合が多すぎるというかねぇ・・・特に土門と美古都の間にあるものがどの程度の想いなのかってのがイマイチ伝わってこなかったんだよな。土門にとっては美古都への愛情よりも美古都の兄である殺された親友・調部への想い、ひいては陥れられたことで自分のプライドがコケにされたという想いの方が強いようにわたしには見えた。愛情という意味においてはむしろ聖子さん演じるペナンと土門の間にこそ感じたもの。土門の腕に抱かれながらのペナンの最期がめちゃめちゃ良くてさぁ、長年敵と思っていた相手が死んでなお満足せずになおも復讐の炎を燃やす土門に対し、その前のシーンからペナンは「何もかも忘れて海へでよう。そして貿易をしよう」と必死で訴え続けてるのね。自分の腕の中でなおもそう請うペナンに土門は必死で笑顔を浮かべながら「そうだな。お前と共に海へ出よう。貿易をして暮らそう」って言ってあげるわけです。土門は復讐を誓った瞬間から優しさや慈しみや、本来の土門という男が深く持っていたであろう感情をすべて捨てて生きてきたと思うのね。そんな土門が鬼になってから初めて素顔というか本来の顔を見せたのがこの時のペナンに対して、だったと思ったの。必死で笑顔を作り必死でもう復讐はやめたとペナンのための嘘をつく土門の中にそういう意味での愛情はなかった・・・と思う。でもペナンは間違いなく土門を愛してたと思うわけで、きっと土門もペナンの想いには気づいてたと思うんだよな。だからこそ土門はペナンを安心させようと嘘をつき、そしてペナンは「嘘はいけない・・・」と呟き死んでいった。二人の間には間違いなく「愛」があったと思う。そしてその瞬間、土門はペナンの亡骸をギュッと抱きかかえながらペナンをこんな目に遭わせた美古都への呪詛の叫びを上げるのね。でも劇中では土門がペナンに対してそうまでするほどの直接的な描写は全くなかった。わたしが二人の間には男女のソレではないにせよ愛があると感じたのは役者の熱演とそしてわたしの頭の中で考えた末のことであって、だからもしかしたらそうではなかったかもしれないわけです。とは言え土門とペナンの関係性はこの作品を彩る一つのパーツでしかないわけなので、それでもいいかもしれない。でも土門と美古都の関係性はパーツでなく作品を作る柱の1本であるわけで、だから二人の想いの深さに関してはもっと直接的に描く場面があったほうがよかったと思った。見終わってからしばらく考えて、土門の過剰とも思えるほどの美古都への憎しみは裏を返せばそれだけ愛情が深かったゆえのこと・・・なんだろうなぁってところに落ち着きはしたんだけど、それはそれで一つの描きかただとは思うもののそれが頭ではなく心にダイレクトに伝わってくるのとこないのとではいわゆる“ドラマ性”が全然違うものになったんじゃないかなーって気がする。愛する女が統べる国を守るために自らを悪として死ぬことを望んだ土門と、そんな土門の想いを受け止め恐らく最初で最後の口づけをし、自らこそがこの国の女王であるという宣言をする美古都。このラストシーンから安い表現だけど不器用な愛の形は見て取ることができました。でも何かが足りないんだよなぁ・・・。役者の熱演でその瞬間はグッと引き込まれはするんだけど、それが心の奥までズドンとは響いてこないというか・・・うーん・・・。でも中島さんはインタビューの中でこうやって見終わったあとでいろいろと考える余白をあえて作った、というような趣旨のことを仰っているので、狙い通り・・・ではあるんだろうな。


堺さん演じるサジは「人を殺す時ぐらいはもうちょっと緊張感のある顔をしてくれないかな?」と殺す相手に言われてしまうというまさに“喜怒哀楽を全て笑顔で表す男”にピッタリな殺人鬼。彼の出自はローラン族という暗殺者民族で、人を殺すことが当たり前、人を殺すことが自分の仕事でありそれ以外の何も必要としない、笑顔で「僕が考えているのは人を殺すことだけだよ」と言ってのける、そんな人です。心の奥底ではそれ以外の何かを求めているとかってんじゃなくて、本当にそれだけで完結してる人。サジという名前ですら土門と対面したその時にたまたま匙を手にしていたからであって、彼にとっては呼び名なんてどうでもいいぐらいなのね。この呼び名、つまり「名前」ってのがこの作品の鍵の一つであり、土門とサジの人間性とともに二人の絆というか関係性を象徴するのが土門がサジに対して言った「次に会う時には(サジの)本当の名前を呼びたいものだ」であり、それに対するサジの「本当の名前?そんなものは僕にはないよ。君にはあるのかい?」だと思ったんだけど、本当の名前というのは美古都の前では最後まで飛頭蛮と名乗り続けた土門とサジの本当の姿とイコールであり、土門の最後までサジを信じ続けたかったその想いと、裏切りは死であるという教えしか入ってないサジという器を表してるのかなーと。サジは最初から最後まで土門の憎悪を煽り復讐心を導き、それを使って『裏切りは死をもって償わせる』という自らの(教えられた)掟に縛られ続けた人だったんだろうな・・・と分かった(思った)のが、何度も斬られ血をダラダラ流しながらも倒れない土門が言う「ここは監獄島だ。俺たちはずっとあの島に捕らわれ続けていたんだ」という言葉にそれまで笑顔という表情しか見せなかったサジが初めて見せた動揺で、でした。でもそこで一歩踏み出すわけではなく、サジは「本当の名前なんてない」と応えるんだよね。結局のところ、土門はサジを憎んでなかったのだと思う。最後までサジという男の芯を信じたいと願った・・・というとちょっと違う気がするけど、土門のその想いがサジに届けばいいと願う一方でサジはそれを理解することが出来ないんだろうな・・・と思うと哀しくてたまらなかったです。でね、堺さんと言えば笑顔ですがw、このラストシーンの笑いがなんともいえない悲しい笑みなのよ!!サジという男を一言で表現するならば「ずーっと笑ってた」と言う他ないんだけどw、その笑いは場面場面で全然違うものなのね。これはすごいよ。さすが笑いのデパート堺さん(笑)。笑顔のシリアルキラーという役柄を堺さんに用意した中島さんといのうえさんには全力で感謝します!。
・・・・・・・・・とまぁ「笑顔」という点についてはなんら心配してませんでしたが、問題はサジが「最強の殺し屋」という設定でして、最強も最強、まさにナチュラルボーン殺人マシーンなわけですよ。ただでさえ殺陣には定評がある新感線の舞台、共演者は上川さんに早乙女くんときたら、果たして堺さんが「最強」に見えるだろうか・・・と思っていたわけです。結果としては・・・微妙(笑)と言わざるを得ませんが^^、少なくともマイ初日よりは2回目、2回目よりは3回目と、見るたびごとに質が上がってたことは確かです!。基本後ろ手というか飄々とした身のこなし(しなやかではなく相手をからかうような動き)かつ常に笑顔を保たなければならないわけでその大変さたるや想像を絶する世界だと思うのですが、慣れなのかなんなのか目覚しい成長っぷりで、すまん堺さん!わたしあなたの運動能力を見くびってました!!と心の中で謝ったわw。途中で懐から3本の棒を取り出し武器(槍?)を組み立てるという場面があるんだけど、そこも当然笑いながらなんかすごいことを言いつつテキパキと組み立てるそのお姿がドストライクでございまして、毎回ヨダレの勢いでハァハァでした。あとからだの後ろで手を組んだままシュパパパ〜って走り抜けるのとか、あとあと人の話を聞いてる時の手がドラえもんのごときグー握りだったのも素敵可愛すぎw。可愛いと言えば、わたしが好きなシーンの一つが圭哉演じる浮名が蛮心教を牽制しにやってくる場面でして、これ土門上川のわざとらしさとサジ堺の心のこもってなさの相乗効果ですごい面白シーンになってたわw。あともう一つ好きなシーンは右近さん演じる超絶キュートな大王が牛車に乗ってやってくる場面なんだけど(稲森さんのおでこを「こんの〜っ★」って感じで指でつっついてみたり、ずーっとキャッキャキャッキャしててもう右近さんワールド炸裂すぎw)、牛車と大王のおかしなテンションを見るサジがもう子供のようなキラッキラの目と笑顔を浮かべてて、まさに無邪気で邪悪な子供って感じで(この後大王殺害を企んでるわけだし)これはまさに堺さんの真骨頂って感じでした。まさに堺さんのための役を用意してもらえたわけだからそれなりには合うだろうってことは期待込みで確信してましたが、期待以上に新感線の世界に合ってた・・・と思います。サジという役がハマリ役なだけに同じようなものにせよ真逆にせよ次の役はとても難しいかとは思いますが、また出てくれるといいな。


右近さん大王を筆頭に、惜しげなく肌を露出してくださった聖子さんに小悪党な粟根さんや「そのキャラで本当にいいのか・・・?」(byじゅんさん)なよし子さん、普通にいい奴な河野くんと普通にかわいいさとみちゃんなどなど劇団員さんたちもみんなよかった。そしてわたしが最もときめいたのは調部役の川原さんの青い凛々しさ、でしたw。でも劇団員さん(+圭哉)の殺陣がなかったのは残念だったなぁ。上川さん対じゅんさんとか見てみたかった。


そしてわたしのハートをむんずと掴んで奪った早乙女くんでございます。初見感想でも書きましたが、まーーーーーじ綺麗!!!!!存在が華麗すぎ!!!。女形で舞を披露してから男役に早替わりするのですが、変わる瞬間髪をバサーってするのがやべえ!マジやべえ!!ひいいいいいいいいっ!王子がいるうううううううううううううっ!!って興奮の坩堝。早乙女くん演じる刀衣は美古都のボディガード・・・というよりも世界観からいって美古都専属の騎士といった役どころなのですが、その騎士っぷりはまさに凄まじい美剣士なものの、土門と美古都の関係性同様この二人の関係性、お互いにとってお互いがどんな存在なのか?ってのが分かりにくかったのが激しく残念でした。刀衣が美古都の手元におかれるようになった経緯からしてよく分からなかった。捨てられてた刀衣を美古都が拾った・・・ように見えたのですが(それはそれで激萌えシチュエーションなので映像でもいいから見せてほしかった・・・)、そうだとしても違ったとしても、刀衣が自らの命を賭けてまで美古都を守ろうとするその理由がよく分からなかった。想像はできるんですよ。これがまたクッソ萌えるシチュエーションなんだけどさ、サジと刀衣は初めて剣を交わした瞬間互いに“何か”を感じとるんだよね。後に明らかになるその“何か”ってのは、お互いに共通する人殺しの匂い、つまり刀衣もまたサジ同様ローラン族に生まれ殺人者として育てられた存在だったということのね(サジは凄腕すぎたがために同族からその存在を危険視され抹殺されそうになったところを逆に一族郎党皆殺しにしたという壮絶な背景の持ち主でして、てことは恐らく刀衣の関係者もサジの手によって殺されているんじゃないか?と思ったんだけど、サジの存在は知っていたようですが刀衣の口から例えば「○○の仇」とかそういう発言は出ないのね。これがすこぶる惜しい。その手の発言がなかったってことはそういう事実がなかったということなのかもしれませんが、絶対にあったほうがよかったと思う。俺的に(笑)。まー早乙女くんの刀衣はそういう生々しい感情がないからこそいい意味で作り物のような存在として輝いていたと思うので、これで正解だったのかもだけど。ていうか堺さんに早乙女くんときたらローラン族はさぞかし美形殺人者集団なのではないかと思うわけで、ローラン族についてもっとkwsk!と思わずにはいられませんでしたw)。でも人を殺すこと以外は空っぽなサジに対し、刀衣は人を守るために自らの命を捨てられる熱と覚悟を持ってる。同じ人種でありながら二人の違いは何なのか?・・・それは自らが持つ力は人の命を奪うのではなく守ることもできるのだと教えてくれた人がいるかいないか、ってことなのではないかと思ったのね。そして刀衣にとってその人が美古都だったのではないかな、と思ったのです。年頃の青年(少年かも)なので、優しくて気高く誰もが認める美貌の持ち主である美古都に恋心を抱いていても全然不思議じゃないと思うんだけど、刀衣→美古都の間にはそういう空気は全く感じられなかったのね。特殊な生まれ育ちのせいで恋愛感情をしらない刀衣・・・ってのはそれはそれでタマラン設定ではありますが、残念ながらwそういうことではなく仕えるべき人として崇拝してたのかなぁと。その微妙な(はっきりとしない)関係性ってのも味というか、見た人が好きなように解釈すればいいということなのでしょうが、今でこそなんとか咀嚼しようと頑張ってはいますが早乙女くんの騎士っぷりがあまりにもあーまーりーにーも素敵すぎるがために頭ポーーーーッとなってしまって見てる間は何も考えられなかったというのが現実なのでw、わたしとしてはもうちょっと説明があったほうがありがたかったなーと。
あ、今思い出したけど、刀衣の萌え設定の一つに『薬使い』ってのもあったんだ!。刀衣の薬使いとしての腕が斬っても斬っても倒れない(立ち上がる)土門とサジの壮絶な死闘を演出することになるその流れはゾクゾクしたわぁ。刀衣の死は生きてる時同様、ヘンな言い方だけど死に際も華麗で颯爽としてるの。言い方を変えれば潔いまでにあっさりなんだよね。え?刀衣死んじゃったの!?って驚きすら感じたほどなのです。でもその刀衣の死は結果として美古都と美古都の国を守る(美古都による最後の言葉は観客の耳には聞こえないという演出なので美古都の宣言が「守る」なのか「治める」なのか「変える」なのか、もっと違う言葉なのかは分かりませんが)力となり、そして土門の復讐を終わらせることになるのです。それから、死をもって定めや掟から解き放ってあげたという意味ではもしかしたらサジをも救ったことになるのかもしれない。激しくも哀しいラストシーンを見ながら刀衣の死は無駄じゃなかったんだな・・・と思うと、うぐぐっ・・・とこみあげそうでした。
・・・と涙目になってるところでカテコで出てきた早乙女くんってばテラ男子なんよ!!!!!。足を結構な広さにガバっと開いて両手を前で握って頭下げるその姿がめちゃめちゃ男っぽいわけ!!!。ちょ!!!ちょ!!!!!!!!!!!太一くんってば何個顔持ってんの!?!?!?!?その見目麗しい外見の中に何人の太一くんが存在してるの!?!?!?!?ってプチパニックですよ・・・。すごい。この人は本当にすごいと思う。初見の感想でもオーラすげええええ!と書きましたが、この歳でこれだけの華と色気を持っているってだけでも驚愕モノなのに、早乙女太一が凄いという最大の理由はまだまだまだまだ伸びしろがあるってことなのよね。わたしはこの舞台で初めて早乙女くんを見たぐらいなのでどういう考え方をする子なのかとか早乙女くんを取り巻く環境とか全く分からないんだけど、その伸びしろをどんどんと伸ばしていける(伸ばすつもりがある)のだとしたらものすごいスターになると思う。そういう意味では今の早乙女くんを見ることができたことが一番の収穫でした。
・・・・・・・・・そんな人に対してこんなことを思ったこと自体が許されないとは思いますが・・・・・・早乙女くんの不二先輩が見てみたいとか思ってしまってごめんなさいいいいいいいいっ><だってだって舞うような身のこなしと涼しくも鋭い目線、そしてなによりも声が!あの声が不二先輩そのものだと思ったんだものおおおおおおおおおおっ><


上川さんの存在感や稲森さんの美しさ、山本亨さんの無骨な味やある意味一番美味しい役だった千葉哲也さんの上手さとか他にも書き残しておくべきことはありますが、太一くんで胸いっぱい・・・。